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2024.09.02

コラム

埼玉大学大学院 理工学研究科 小嶋 文 准教授 講演会

編集:自転車総合研究所 所長 村野 清文

2024年2月20日火曜日、当センター自転車総合研究所が「第6回 自転車総合研究会」を開催しました。その第2部として、埼玉大学大学院 理工学研究科の小嶋文 准教授による「モビリティ、都市・地域、そして人の変化」と題する講演会を開催しました。

今回のコラムでは、この講演会についてご紹介します。

 

小嶋 文准教授のプロフィール

埼玉大学大学院 理工学研究科 准教授
理工学研究科 環境科学・社会基盤部門 交通・計画グループ
ご専門は土木計画学と交通工学。特に交通安全(交通事故分析、安全な交通環境の構築)、歩行空間(歩行者の安全と利便性を高めるための道路設計や政策)、住民参加(地域住民の意見を取り入れた都市計画や交通政策の策定)等について研究されています。

 

講演会の概要
今回の講演会では、5つのテーマについて、お話をいただきました。
1. 「自転車通行空間整備と交通事故への影響」
2. 「子どもの自転車乗車時の危険行動」
3. 「子どものための自転車安全運転支援システムの提案」
4. 「電動二輪モビリティ」
5. 「ゲーミフィケーションによる自転車等の交通安全の可能性」

ここではそのうち、「自転車通行空間整備と交通事故への影響」及び「ゲーミフィケーションによる自転車等の交通安全の可能性」について紹介します。

 

【自転車通行空間と交通事故への影響】

埼玉県内でも多くの路線で自転車通行空間が整備されてきました。歩道走行から自転車を車道に下ろしていく中で、交差点で自転車が事故に遭った際に、衝突場所の緯度経度の情報はデータとして記録されていた場合でも、衝突する前に自転車が歩道を走っていたのか、車道を走っていたのかといった点がわかりませんでした。この研究では、自転車通行空間に関係ある方向から通行してきた自転車の事故に関するデータをまとめて、自転車通行空間の整備の前と後で比較を行っています。

なお、これらのデータは、事故の法令違反の内容と組み合わせて、例えば、ある事故について一時不停止の法令違反があったならば、一時停止がかかっている方向から来たのだろうという様な推測を加味しているものです。

事故累計別に、左折対直進、左折対対向直進それぞれについて自転車通行空間の整備前・整備後を比べると、出会い頭の事故が半数近く減っています。自転車が歩道を走ってきての事故も減っているし、自転車が車道を走ってきての事故も減っています。
右折対対向直進、自動車が右折をして向かいから自転車が走ってきて起こるような事故は、減少傾向が見られないというところです。

その他には、駐停車車両に自転車が追突するような事故が増えていて、自転車通行空間を整備する際、駐停車車両の対策もしなればならないということが示されています。また、車道を走っていても、右側通行をしている自転車の事故は増えています。走り方という面もしっかりコントロールしなければなりません。

損傷の程度別には、自転車通行空間の整備後は軽傷の事故、重傷の事故ともに減っています。自転車通行空間を造って車道走行を促す中、重傷事故の増加は見られませんでした。通行量と事故の数は比例するので、自転車通行空間を造った場合には車道を走る自転車が増えることを考慮して事故の増減を考えなければなりません。全体として見れば、自転車通行空間の整備によって自転車の事故は減っています。

自動車が右折をして、向かいから自転車が走ってきて起こるような事故は、減っている傾向が見られませんが、なぜ起きてしまっているのかをもう少し詳しく見ていかなければなりません。

今後、自転車通行空間の整備を進める中で、自動車から見えにくいところはないか、自転車から見えにくいところはないか、自転車が通行の方向を守っているか等々、検討すべき課題が見えてきました。

【 ゲーミフィケーションによる自転車等の交通安全の可能性 】

埼玉大学では年に1回、埼玉県知事を招いて学生が政策提言を行う機会があります。昨年11月はヘルメット着用の促進と電動キックボードの安全利用について提言を行いました。ヘルメット着用は見た目が悪いとか、運転に自信があるとか、ヘルメットの置き場所に困るといったことがありますが、ゲームとして楽しく学ぶ「ゲーミフィケーション」の考え方を利用してヘルメットの着用を促進していくという試みです。

「ゲーミフィケーション」を用いた例としては、高速道路の渋滞緩和のためサービスエリアに立ち寄ると「クエスト達成」になるといった取り組みもあります。ゲームとして達成感を得て、ポイントを得られるということで、金銭的なものでなくても行動変容は引き起こせるといえます。ただし、ゲームに夢中になるあまり危険運転を誘発したり、不必要に乗り回したりとならないようにすることも考える必要があります。

ヘルメットについての提言は、ヘルメットを利用するとキャラクターが育ち、ポイントが貯まるというものです。地域のスーパー、ゲームセンター、コンビニなどの施設にヘルメット置き場を整備してもらい、そこでヘルメット認証、顔認証を経るとポイントが付与され、施設側への集客にもつながるような仕組みです。


電動キックボードの安全利用についても同様に、スマートフォンを電動キックボードに取り付け、安全運転をしているか、歩道を走っていないかなどをチェックして、安全運転だった場合にポイントを付与して、楽しみながらいつの間にか安全運転している。そんな工夫をすることで行動を変えてもらうというものです。

知事からもゲーミフィケーションの考え方がなじむ、ということで提案にかなり興味をもっていただきました。学生達に「このゲームのプログラムはどうするの?」 と聞かれるなど、かなり興味をもっていただいたようです。

 

講演後の質疑応答では、車両は左側通行、歩行者は右側通行という原則は対面通行を想定しているが、交差点では自転車を始め車両は交差点の左から来る右側通行の歩行者と出合い頭にぶつかる危険があるのではないでしょうかとの指摘もありました。

 

今回の講演会では、それぞれ重要な5つのテーマの研究をご紹介頂きました。ゲーミフィケーションのお話しでは、安全な自転車利用を実現する上で、人の心理に働きかける事が有効かつ重要であると実感した次第です。