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2022.08.29

コラム

第10回 国勢調査からみる通勤通学時の自転車利用の動向①

1. 通勤通学者の人口と自転車利用者の減少

2020年国勢調査結果のうち、通勤通学時利用交通手段が2022年7月に公表されました。これをみますと、通勤通学者(15歳以上)の総数は、2020年には、57,153千人となっており、全人口(126,146千人)の45.3%に当たります(以下表1)。2000年には62,105千人いましたが、2010年には、58,423千人(3,682千人減、5.9%減)で、2020年は2010年に対して、1,271千人、2.2%減となっています。通勤通学者総数は、このようにこの20年間で4,952千人(8.0%)の減少となっています。これは、人口減少と超高齢化が大きく影響しています(高齢者の就業の拡大等もあり相殺されている部分もあります)。
これらの通勤通学者のうち、自転車をその全部または一部の過程で使用している人は、2000年は10,786千人いましたが、2010年には9,336千人となり、2000年と比較して1,451千人(13.4%)の減少。2020年は8,137千人で、2010年と比較して1,199千人(12.8%)の減少となっています。この20年間で、自転車を全部または一部に利用している人は、2,649千人の減少であり、全通勤通学者の8.0%の減少を大幅に上回る24.6%の減少になっています。これは、全体が減少傾向になる中で、自転車以外の主要交通手段の利用者の増加又は減少幅が小さかったことが要因です。特に、「自家用車のみ」と「鉄道・電車のみ」が増加又は減少幅が小さいことで自転車がその分大きく減少したことが影響しているのです(その原因は次で触れます)。

表1 通勤通学時利用交通手段9区分(通勤通学の全部または一部で利用している交通手段)

出典 各年国勢調査の通勤通学時利用交通手段
注 同じ人が二種類、三種類等の交通手段を利用しているケースがあり、この場合は、複数カウントされているので、合計は100%にはなりません。

2. 自転車通勤通学の人口

通勤通学手段が1種類は、自宅からドアツードアで通勤通学することを意味しますが、この中で2020年の「自転車のみ」の人は、5,604千人(全体の9.8%)となっています。2000年は、7,509千人(全体の12.1%)でしたが、2010年には6,551千人(全体の11.2%)で958千人(12.8%)減少、さらに2020年には2010年に比べて946千人(14.4%)の減少になっています。
また、自転車で駅まで行き、鉄道・電車に乗り換える人(表2で「鉄道・電車及び自転車」)は、2020年を見ると1,501千人(全体の2.6%)となっています。2000年は2,166千人(全体の3.5%)であったものが、2010年には1,731千人(全体の3.0%)で435千人(20.1%)の減少、さらに2020年には2010年に比べて、230千人(13.3%)の減少になっています。

表2 通勤通学時利用交通手段16区分

出典 各年国勢調査の通勤通学時利用交通手段

これに対して、「自家用車のみ」の人口は、2010年は2000年に対して減少していますが、2020年には増加し、また、全体に対する割合が、2000年(44.3%)、2010年(45.1%)及び2020年(46.9%)と徐々に上昇しています。さらに、伸びが目立つのは、「鉄道・電車のみ」です。これは、毎回人口も増加し(8,668千人⇒9,143千人⇒9,785千人)、また、割合も増加(14.0%⇒15.6%⇒17.1%)しています。結局、これらの増加や減少が小さかった分が、「自転車のみ」及び「鉄道・電車及び自転車」の分の減少の一定の要因になっていると考えられます。

3. 自転車の減少の原因として考えられるもの

このように、自転車の利用が、全体として、また、「自転車のみ」及び「鉄道・電車及び自転車」で下落幅が他に比較して大きい原因について考えてみます。
まず、「鉄道・電車のみ」(徒歩で駅まで行く人)の伸びが大きい理由としては、最近の動向として、駅前のタワーマンション等や駅近の住宅に住む人口の増加で、徒歩圏の人口が増加したのではないかと考えられます。また、今まで通勤していた人で、駅に自転車又は乗り合いバスでアクセスしていた人が退職等で通勤しなくなる一方で、若い世代で利便性を追求した駅近のマンションや住宅に住む人が増加しているのではないか、つまり、駅の遠くから通勤する人が少なくなっているのではないかと考えられます。このことは、表2で「鉄道・電車及び乗合バス」の人、つまり駅までバスで行って鉄道・電車に乗る人も、「鉄道・電車及び自転車」の人と同様に人口及び割合が大きく減少している(表2のⅡ)ことからもうかがえます。
次いで、「自家用車」の増加ですが、これは、自家用車自体の性能や道路等の整備の進展による渋滞の緩和や道路環境の向上があることはもちろんですが、都市が薄く郊外に拡大するいわゆるスポンジ化現象で、駅から離れ、かつ、公共交通の不便な土地で自家用車での通勤を前提した住宅に居住する人が増加しているのではないかと考えられます。もちろん、立地適正化計画の策定などでの対策は講じられていますが、これはその現象が現れているから講じられた措置でもあります。
これら以外にも、自転車活用推進計画の策定や自転車ネットワークの整備が進められてはいますが、これに対する国民サイドへの浸透が今後の課題になっていることなどもあると思われます。
これらにより、通勤通学の一部または全部において、自転車を利用する人口が減少しています。このコラムでも、たびたび取り上げてきておりますが、日本人の男性3人に2人、女性の2人に1人がかかるといわれるがん(東京大学特任教授中川恵一 日本経済新聞2022.8.10夕刊)を含めた生活習慣病等の予防、さらに、認知症やロコモ等の軽減などに有効かつ貴重な身体活動機会を得るチャンスとして、仕事や育児等で忙しい生産年齢層での通勤通学の移動は、外出の機会の少ない高齢者層の日常用務の外出の移動と同様に極めて貴重です。移動に際して、身体活動とカーボンゼロが同時に実現できるのは、徒歩と自転車のみです。待ったなしの地球温暖化対策にも極めて有効であることを含めて、この国勢調査の結果を真摯に受け止め、通勤通学など一定の距離の範囲の移動で、自転車をより積極的に活用するような方策が必至であることを認識する必要があります。(具体的な結果の内容や活用推進の方法は、以前のコラムや今後のコラムでも触れていきます)

文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

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