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2023.03.30

コラム

第14回 駅から自転車で10分のアクセスの推進

1.駅から時間距離 ~徒歩と自転車

不動産の立地について、多くの人は駅から10分というと、徒歩で10分ということを連想します。不動産の広告では、徒歩10分は分速80mとして計算し、駅から800mの道路距離になることは周知のことです(「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則」第5章第1節10条10項)。この程度の時間であれば、駅からのアクセスとしては、申し分ないと考えられます。また、駅から徒歩では行きにくい場合などにクルマやバスで○○分という不動産の広告の表示はよく見かけます。これに対して、自転車で駅から○○分という話はあまり聞きません。自転車が人によって所要時間が異なるなどの事情があるかもしれませんが、クルマやバスでも鉄道・電車と違い渋滞等の環境によって時間は大きく異なることがあるのに、自転車だけはこのような表記がなされることがほとんどなく、その所要時間は考慮されていないのです。
本コラムでもたびたび取り上げておりますが、2020年の国勢調査によると、全国の通勤通学者約5,720万人のうち、「鉄道・電車のみ」の人は約978万人(17.1%)おられ、この方たちは距離の大小はあるにしても、所要時間を意識しながら自宅から駅まで徒歩で往復しています。「鉄道・電車及び自転車」の二種類で通勤・通学している方は、約150万人(2.6%)で「鉄道・電車のみ」の15%くらいの人数ではありますが、これでも相当多くの人数になり、この方たちは、自宅と駅まで自転車で現実に往復しています。ちなみに、「鉄道・電車及び自家用車」や「鉄道・電車及び乗合バス」の各二種類を利用している方は、それぞれ、約51万人(0.9%)及び約191万人(3.3%)です。「鉄道・電車及び自転車」と比較しても、割合的にあまり変わりない又は低い水準です。しかしこの利用交通手段についての駅からの時間表示は先に述べたように不動産についてなされることがよくあります。これに対して、現実には自転車で行かれる人が多くいるにもかかわらず、天候等に左右されることもあるためでしょうか、自転車での駅までのアクセス時間は意識して取り上げられることはほとんどないのです。

2.自転車の速度と駅からのカバー範囲

(1)自転車で10分は2500m
それでは、自転車の標準的な速度はどの程度でしょうか。国土交通省の自転車の移動時間の試算において採用されている自転車の旅行速度(街の中での現実的な速度)は、時速15kmとされています。これは、分速では250mとなり、10分間では2500mとなります。つまり、徒歩10分では800mに対して、同じ時間で、自転車は徒歩に対して標準的には3倍強の2500mまで行くことができ、自転車は駅から相当離れた場所までをカバーしているのです。

(2)自転車で駅からカバーできる面積は徒歩の10倍
これを基にしますと、駅からの所要時間10分間でカバーできる範囲は、直線距離で考えた場合、徒歩では0.8kmの円の面積として、約2平方キロメートルとなります。これに対して、自転車では、2.5kmの円の面積として計算しますので、約19.6平方キロメートルとなり、徒歩の約10倍弱の面積になります。都市の人口集中地区を考える際の人口密度は、1平方キロメートル当たり4,000人以上ですので、仮に最低の4,000人としますと、徒歩10分圏の人口は2平方キロメートルで、約8,000人となり、これに対して、自転車10分圏の人口は約19.6平方キロメートルで、約79,000人と10倍弱の人口が存在することになります。いずれも、その範囲が同じ人口密度とした場合です。
このように考える場合、徒歩では時間がかかる又はつらい距離だとお考えの方も、自転車であれば、同一時間で、距離にして約3倍強、面積にして10倍弱のエリアで駅まで往復することができる可能性があることになります。
なお、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動基準2013」では、先述の“徒歩”(80m/分)と“自転車に乗る”(267m/分)の単位時間当たりの身体活動量は、自転車が徒歩の1.1倍程度ですので、同じ10分程度の移動による疲れはわずかに自転車の方が多いですが、基本的には大きな差異はないと考えられます。
つまり、同じ時間であれば、疲れ(運動量)は徒歩とあまり変わりない状態で、自転車でも容易に駅にアクセスできることになるのです。また、その可能性のある人口は、駅から10分の時間距離では、自転車が徒歩の10倍弱を擁することになります。
なお、ヨーロッパではすでに1999年の段階で、自転車による公共交通の利用促進のために、その誘致圏について、公共交通への10分の徒歩圏に比較して自転車圏3.2kmの距離(速度を20km/時としています)で16倍の誘致圏の拡大が可能であるとしています。

図1 公共交通の駅・バス停への誘致範囲(EC作成文書)

出典 European Commission ”Cycling: the way ahead for towns and cities”, 20ページ, 1999年作成
 

3.駅前の自転車駐車場の利用可能性のある範囲

(1)駅前の自転車駐車場の利用
このように、駅まで2500mの距離は徒歩だと30分以上かかるため、つらいと思って駅まで行くことを回避してしまいますが、自転車では10分で行けるのです。そして、仮にこの自転車で10分の広い範囲から自転車で駅までやってきた場合、これを駐輪する多くの自転車駐車場の需要が生じます。ただし、自転車で駅10分圏の人たちが一挙に自転車でやってきますと、駅前の駐輪ポテンシャルではカバーができません。また、現状でもひっ迫している駅もたくさんあります。しかし、全国的にみてみると、駅前の自転車駐車場の収容能力約433万台に対して、実収容台数は約241万台となっており、実収容率は55.7%となっています(国土交通省「駅周辺における放置自転車等の実態調査結果の集計結果」2022年3月)。駅前に多くの駐輪空間が利用可能な状態で存在することも確かです。

(2)自転車と鉄道・電車との連携の重要性
一方で、脱炭素や健康増進等の必要性から、自転車と公共交通との連携の必要性が強調されています。自転車で直接いけない目的地にクルマで直行するのではなく、駅まで自転車で往復し、公共交通を利用すること、すなわち、公共交通とセットでの利用促進を通じて、脱炭素や健康増進を図ることは今や重要な方策であることは明らかです。国の第二次自転車活用推進計画で「公共交通機関との連携を強化」(9ページ)と記載されているのをはじめ、多くの地方の自転車活用推進計画でこれを推進することとされています。
これに際して、駐輪空間の需給がひっ迫している駅は別として、余裕のある駐輪空間を持つ駅では、この貴重な自転車インフラを積極的に活用し、クルマでのドアツードアの通勤通学から、自転車と公共交通をセットにした利用へ転換することがSDGsの達成に貢献できます。

4.自転車駐車場の利用促進

これらの過程で、自転車駐車場は、従来の自転車の放置対策から、公共交通との連携を通じた脱炭素や健康増進などを推進する環境健康の貢献方策に重点が移ってきています。駅が遠い又は自転車駐車場が利用しにくいなどの思い込みで、自転車で駅までの往復を躊躇していた人やそのことに気付かなかった人も、自転車による健康増進と脱炭素、さらに公共交通の連携の重要性を再認識してもらい、空いている自転車駐車場の積極的利用をしてもらうことにより、我々が抱えている重要課題の解決に寄与できるのです。

(1)自転車駐車場利用者の実際の範囲
それでは自転車駐車場の利用者の駅から自宅までの距離はどのようになっているのでしょうか。

図2 豊洲駅地下自転車駐車場の登録利用者の居住地(一部)

出典 特定非営利活動法人自転車政策計画推進機構「自転車のIoT化の促進のためのICタグ導入に関する実証実験業務報告書」(2021年9月、JKA補助事業)p43の図を基に作成
 

図2は、東京都江東区の豊洲駅前にある自転車駐車場の利用者の居住範囲を一部地図にしたものです(1000m程度以内の町丁目は4%以上、これを超える場合で地図の範囲内の町丁目は低い割合も図示)。
これを見ますと、直線では1000m程度の人の割合も多いのですが、1500mやそれ以上の人もいます。これらの場合、橋を渡ったりして、道路距離は長くなりますので、2000mを超える人つまり、自転車で10分程度の人も一定は含まれていると推測できます。これから考えますと、駅まで10分程度の距離を自転車で往復することは、皆無ではなく、現実に一定数は存在しており、自転車で10分のアクセスの可能性を示唆しています。

(2)自転車駐車場まで10分間かけて行ってもよいと思っている人は多い
上述の図2は、その可能性を示唆するものですが、実際のポテンシャルを持っている人の割合は一部にとどまっているのでしょうか。図3は、別のアンケート調査(特定非営利活動法人自転車政策計画推進機構実施の滋賀県草津市モニター)において、自転車駐車場まで自宅から自転車でアクセスしてもよい距離について質問した結果です。その回答(回答者148名)では、自転車駐車場まで行ってもよい距離の平均値は2.0kmでした。また、回答の分布状況は、平均である2.0km以上の距離を回答した人は累計 45.3% (実数で67名)、自転車で10分の距離である2.5km以上の距離を回答した人 は累計で34.5% (実数51名)となっています。このようなことから考えて、自転車駐車場まで片道10分程度以上の距離を行ってもよい距離の人はかなり存在することが推測できます。

図3 駐輪場まで行っても良い片道の距離(回答者148人)

出典 特定非営利活動法人自転車政策計画推進機構「ICタグを通じた自転車のIoT化による活用推進の社会実験業務」(JKA補助事業)におけるモニターアンケート(開始時)の集計結果による。
滋賀県草津市における社会実験モニターアンケート(全体の回答者169名)。
 

(3)自転車で駅まで10分以内の人は拡大の余地がある
以上から、駅勢人口的には、駅まで自転車で10分圏程度のアクセスでもよいと考えている人は、実際に自転車駐車場を利用している人よりも数多く存在する可能性があります。しかし、現実には、距離の感覚や駅前の自転車駐車場の利用が思い浮かばない人などが沢山いて、公共交通との連携等の需要の発現には至っていないケースが多数あると思われます。
一方では、駅前の貴重なインフラ空間である駐輪空間をより有効活用できるポテンシャルがある駅は相当数存在するものと考えます。このような駐輪需給がひっ迫していない駅まで10分程度の自転車利用を拡大することにより、公共交通と自転車の連携を通じた駅へのアクセス圏拡大を推進することが望ましいと考えられます。今後超高齢社会において、通勤通学人口が減少傾向にある中で、公共交通の利用の促進と脱炭素や健康増進に寄与できるよう、地域の通勤通学の特性・意向や駅・鉄道・電車の混雑等の動向を踏まえながら、上のような自転車のアクセス圏の拡大の是非を含めた公共交通との連携の在り方を検討して、可能な範囲で駅までの自転車利用を拡大することが望ましいのです。
なお、このような自転車駐車場の活用拡大を図ることに対する利用者側の課題と対応の考え方については、別の機会に整理して述べてみたいと思います。

文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

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