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2023.04.12

コラム

第15回 自転車駐車場の隠れた需要は大きい

1.自転車駐車場の実際に現れている需要

(1)駅まで自転車で10分圏の自宅外通勤通学者の人口

前回コラム(第14回)で取り上げましたが、駅までの自転車による時間が10分圏のアクセスの可能性は極めて高いのです。前回のコラムでご紹介しましたように、駅まで自転車で10分圏の人口は、国土交通省の所要時間のグラフの算定の基礎となっている自転車の分速を250mとして、自転車での10分圏は半径2.5kmとなります。自転車の放置がしばしば問題となるような人口集中地区※を対象にして考えることにして、その人口密度を最低の4000人/平方キロメートルとしますと、面積が19.6平方キロメートルで、自転車で10分圏全体では78,500人(前回はおおまかに約79,000人としています)の居住者がいることになります。

この居住している人口のうち、自宅外の通勤通学者は、全国で通勤通学比率が45.3%(日本の人口126,146,099人のうち57,152,761人が自宅外に通勤通学)ですので、一応この割合で大まかに推測してみます。この割合は、市区町村ごとに異なりますが、仮に、その割合で駅から自転車で10分圏の自宅外通勤通学者は、人口7.85万人に対しては、35,600人(78,500人×0.453)ということになります。

(2)鉄道・電車と自転車を利用している人口(顕在化している駐輪需要)

このうち、「鉄道・電車と自転車」を利用している人の割合は、全国的には2.6%ですので、自転車で10分圏では、計算上925人(78,500人×0.453×0.026)となります。すなわち、925人が現実に自転車で駅に行っている、すなわち顕在化している駅前の自転車の駐輪需要になります。

※2020年国勢調査によりますと、人口集中地区の人口は全国で8829万人、面積は13250 平方キロメートル、全地域に占める割合は、人口で70.0%、面積で3.5%になります。都道府県別に面積の割合が高いのは、東京都49.8%、大阪府48.7%、神奈川県39.5%、埼玉県18.9%、愛知県18.7%、千葉県13.1%、福岡県12.0%などとなっています。都市部の居住可能地の大半がこの人口集中地区になっています。

2.自転車駐車場の大量の隠れた需要

(1)自転車駐車場まで行ってもよい距離と思っている人の割合(0.5km刻みごと)

これに対して、この顕在化している需要以外に、実際は通勤通学時に駐輪場まで自転車を利用していないが、駐輪場まで自転車で行ってもよい距離と思っている人がたくさんいます。前回の14回のコラムでは、滋賀県草津市でのICタグ利用の社会実験に際してモニターに対して行ったアンケート調査結果に基づき、自転車駐車場まで自転車で行ってもよい距離をグラフにしたものをご紹介しました(第14回コラムの図3)。この回答結果を0.5kmに刻みで集計したのが、表1です。これによりますと、距離のいかんにかかわらず自転車駐車場に行かないとアンケートの回答から推定される人が12%いますが、これを除いた88%の人では、例えば、「1km超~1.5km以下」を行ってもよい距離であると考えている人が9.5%、同「1.5km超~2.0km以下」も9.5%いるなどがわかります。これらを基にして、自転車駐車場までの距離0.5kmごとに、行ってもよい距離と考えている人の割合を乗じていくことで、通勤通学時の駅まで10分圏の潜在的な自転車利用の可能性のある全体の人口を大まかに推計します。

表1のa及びbは、前回のコラムで取り上げました自転車駐車場まで行ってもよいと考えている人の割合を500mごとに2.5kmまで整理したものです。

具体的には、500mごとに、自転車で駅自転車駐車場まで行ってもよいと考えている人の割合を出し、その輪切りの円ごとの自宅外通勤通学人口(推計値)に乗じれば、自宅外通勤通学者で駅10分圏で自転車駐車場まで行ってもよい人口としての駐輪需要(顕在+潜在)となります。

ただし、自転車駐車場まで行ってもよい距離を回答したものの、通勤通学の目的地が鉄道・電車を介さない方向の人や通勤通学では自転車で駅まで行くことを考えていない人が含まれます。これらの場合は、通勤通学以外の目的(買物、余暇等の用務)のため自転車で駅まで行って公共交通を利用する場合の駐輪需要として捉えます。これらは、いずれにしても、鉄道・電車を介して、すなわち、鉄道・電車と自転車の連携の場合の駐輪需要としてカウントし推計します。

(2)駅から 10分圏内の自転車で行ってもよい距離の人数の総計

これらの考え方をもとにして、通勤通学で駅からの距離帯ごとに自転車を利用してもよい距離帯別の人数を試算してみると、表1の計15,327人となります。

表 距離ごとの行ってもよい距離の人数の推計

出典 特定非営利活動法人自転車政策計画推進機構「ICタグを通じた自転車のIoT化による活用推進の社会実験業務」(JKA補助事業)におけるモニターアンケート(開始時)の集計結果による。滋賀県草津市における社会実験モニターアンケート(全体の回答者169名)。

具体的には、アンケート調査結果で、自宅から自転車駐車場まで自転車で行ってもよい距離を0.5km刻みで集計すると、表1のaの回答数の通りです。このaの数値には、2.5km超の人が43名(「参考2.5km超」)おられ、また、無回答その他で距離にかかわらず全く利用しないと推定できる人が21名(「参考全く利用しない」)おられます。これを除いて、駅を中心にした同心円の0.5km刻みのドーナツ型の区域ごとに計算すると、表1のbのような割合になります。そして、その区域での利用可能性のある人の累計が表のcです。例えば、「2.0km超~2.5km以下」の距離では、それを超える距離を利用してもよいと答えた人も、当然それ以下も行ってもよいと考えられるため、これを含めて、その累計cの割合は「2.0km超2.5km以下」の割合と「参考2.5km超」の割合を累計したもの、すなわち、0.047+0.254(四捨五入の関係で合計は差が生ずる、以下同様)の0.302となります。また、同様に「1.5km超2.0km以下」は、0.095+0.302の0.396となります。

このようにして、距離別の区域ごとに自転車駐車場を距離的に利用してもよいそれぞれの累計の率cが出てきますので、これの割合cと対象区域ごとの通勤通学人口eを乗じますと、その区域内ごとに、距離の面で自転車駐車場を利用してもよい人数fが推計されます。

これらの人数を合計しますと、2.5km以内の自転車駐車場を利用してもよい通勤通学の人口は、fの欄の計15,327人となります。これに対して、先ほどの1の(2)の顕在化している推定人口は、925人ですので、この差の約14,402分が、潜在的に距離の面で駐輪場まで行ってもよい人の数として推計されます。この数は上記のような人口集中地区の最低の人口密度をもとにした一般的なもので、市区町村ごとの人口集中地区の人口や自宅外通勤通学比率、また、「鉄道・電車及び自転車」の比率などは、異なりますので、推計をする際は、それぞれの数値を採用して行うことになります。

なお、繰り返しになりますが、通勤通学者の目的地が鉄道・電車を介する必要がない場合などもありますが、通勤通学以外の目的(買物、娯楽等)で鉄道・電車を利用することもありますので、これらを含めた自転車で自転車駐車場までいってもよい距離と考えている人たちを自転車駐車場の利用につなげる必要があります。

文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

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