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2021.10.21

コラム

過去45年で最少となった2020年の自転車事故の件数 

1.交通事故全体と自転車の交通事故の件数は大幅な減少となってきています

(1)交通事故全体の傾向 ~過去60年間で最少件数(図1)
2020年は、コロナ禍の影響で外出回数が減少し、これに加えて、昨今の交通安全対策の充実と車両の安全装備の向上等に伴い、交通事故は大幅に減少しました。警察庁の統計によれば、2020年の我が国の交通事故の総件数は309,178件で、過去60年間(1960年以来)では最小の事故件数となっています。また、対前年の減少率もマイナス18.9%となっており、1949年以来では1966年のマイナス24.9%に次いで二番目の大幅な減少です。さらに、交通事故死亡者数も、2,839人と終戦直後の統計が出されている1948年以来の最小となっています。

(2)自転車事故は1975年以来最小件数(図2)
これとともに、2020年の自転車事故の件数も、最大の相手当事者である自動車との事故の大幅な減少(マイナス17.6%)等により、前年に比べてマイナス15.9%の67,673件となりました。この数値は、(公財)自転車駐車場整備センター自転車総合研究所で調べ得た1975年以来の自転車事故件数のうち最小の件数です。また、前年比でも1975年以来最大の減少幅です。さらに、自転車乗車中の死亡者数も、1975年以来最小の419人となり、また、2015年以来6年連続して最小を更新してきています。
以上のように交通事故全体及び自転車事故の両面について、事故件数及び死亡者数が記録的な減少傾向が続いています。コロナ禍による外出の減少等の影響があるとはいえ、自転車の交通安全について一つの歴史的な節目といえると考えます。これらは、これまでの交通安全対策の進展の成果とこれと併せた国民の交通安全に対する態度及び意識の向上の表れといえるでしょう。

2.自転車事故減少下で自転車の課題が顕在化

このような事故全体の歴史的な減少傾向の中で、自転車事故については、通常は気付かないような課題及び問題点が目に見える形(データ)で浮かび上がり、これによる対策の重要点が顕在化してきています。以下特徴的な点をいくつか取り上げます。これにより、重点的かつ的確な対策の必要性が高くなっている点が明確にわかるのではないかと思われます。

(1)自転車事故の全交通事故に占める割合が高くなってきています
図3は、1975年以来45年間の自転車事故件数と全交通事故に占める自転車事故の件数割合の推移です。この折れ線グラフの部分を見ると、長期的に増加傾向を示していることがわかります(2010年代前半を除く)。1975年が最低で15.8%ですが、その後1994年までは、ほぼ17%台(1980年を除く)で推移していましたが、以後2001年まで18%台(1998年を除く)、2002年の19.0%から2008年の21.22%のピークまで上昇傾向が見られます。すなわち、1975年から2008年までは徐々に自転車事故の全体に占める割合が高くなってきています。しかし、以後の2009年の21.21%から2016年18.2%までは一貫して減少傾向にあります。これは2007年に国の定めた自転車安全利用五則(自転車は車道が原則、歩道は例外など)が浸透し始めた2009年ごろから、その効果が少しずつ現れたことも原因の一つかと考えられます。しかし、2017年を境にして今までないくらいその割合が急激に上昇し、2020年には1975年以来最高の21.9%の割合に達しています(2017年19.1%、2018年19.9%、 2019年21.1%、2020年21.9%)。これは、最大の相手方である自動車の衝突防止装置の普及その他の安全対策の向上で、自動車との事故が2009年以来84-85%の水準であったのが、2019年には82%、2020年には80%と減少してきていることが要因の1つと考えられます。これに対して、自転車事故の全体に占める割合が増えているのは次の3つのことが要因ではないかと考えています。
①後に述べるように歩行者との事故の件数・割合が、2016年以来増加し続けていること
②自転車相互及び単独事故の件数や割合が2016年以来増加していること(ただし、2020年の歩行者及び自転車相互の件数は減少)
③交通事故全体が大幅に減少しているのに対して、自転車事故の減少はこれに追随できていないこと
これらの結果自転車事故の全体に占める割合が上昇してきているのです。このため、交通事故対策における自転車対策の比重が徐々に増しており、この変化を見定めて自転車に対する早目の比重を増した対策が必要であるといえます。

(2)交差点の事故割合が高い状況が続いています(道路形状別)
道路形状別に見た事故の発生場所は、図4のように、交差点が圧倒的に多い状態が長年継続しています。自転車事故を含まない事故についての交差点割合は長期にわたり30%半ばからせいぜい40%強ぐらいの状態であるのに対し、自転車は65%から70%という高い割合が継続しています。他の事故比べて、自転車事故の大きな特徴であるといえます。他の事故に比較して自転車事故の交差点割合が極めて高いことがわかります。道路形状別にみた場合の自転車事故対策は、交差点の改良や信号遵守、一時停止、安全確認などのルールの広報啓発など交差点を優先して実施すべきであることは明らかです。

(3)歩道上の事故は近年一層割合が高くなっています(道路形状別)
道路形状別にみて、交差点に次いで多いのが歩道と車道が分離されている道路の歩道上です。図5の折れ線グラフは、歩道と車道の全自転車事故に占める割合を示しています。歩道上の事故が、車道よりも多い状態は、交通事故総合分析センターに依頼してデータを出していただき始めた2006年以来継続しています(2012年を除く)。特に、近年は、車道での自転車事故件数が大幅に減少する一方で、歩道での自転車事故件数の減少幅が少ない、又は、増加している状態が続いています。
つまり2007年の自転車安全利用五則の制定以来、車道事故件数の減少傾向が顕著であるのに対し、歩道事故はこれに比較して必ずしも一律の減少とは言えず、また、減少割合も全体よりも低く、逆に2018年は2016年に比較して、増加しており、2016年から2019年までは高止まりとなっています。この結果歩道での事故割合が2020年で12.6%に高まり、車道の8.7%(図2)と差が歴然となってきています。なお、近年車道を走行する自転車が増加していることは、皆さんも日常的に目にしておられると思いますが、各種アンケート調査(豊橋市、千葉市、茅ヶ崎市、奈良市、川崎市・立川市、群馬県)でも、車道と歩道の分離道路での車道と歩道の通行比率を聞くと、車道の割合が近年は4割から5割程度になってきています。

このように、歩道通行の事故が多い主たる原因は、歩道上で歩道事故全体の65%~75%を占める自動車との事故が多いことが原因であると考えられます。すなわち、沿道の駐車場等への出入りの自動車が歩道を横切る際に、車道寄りを徐行していないことが多い自転車との出会い頭事故(歩道上の自動車との事故の60.1%注交通事故総合分析センター依頼データ)となっています。歩道での自転車通行は、車両としての意識が低く、かつ、歩道での安心感と最強者のおごりから、車道寄り徐行などの走行ルールの違反などが後を絶ちません。これに加えて、最近特に車道通行の自転車が増加することにより、歩道通行の自転車数が減少し、歩道が相対的に走りやすくなっている点もあると考えられます。また、車道での事故の減少の原因は、車道上での走行環境の路面表示(自転車専用通行帯、ナビマーク(写真)、ナビライン)等が奏功し、車道通行の自転車が明らかに増加し、これに対するドライバーの自転車に対する意識の向上とこれによる認知ミス・判断ミスの減少にあると考えられます。上記のように、車道での事故件数減少の継続とその割合も微減の傾向にあるのに対して、歩道の事故は、全体の事故件数が減少している中で、近年逆に増加傾向や高止まり傾向(2018年~2020年)があり、これが取り残された形で、その事故割合の増加が顕著になるとともに、車道の事故割合との格差が拡大していると言えます(図5)。   (次回に続く)

  文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

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