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2021.10.28

コラム

自転車事故の減少の中で見えてくる、自転車利用のアキレス腱

1.歩行者との事故の割合がかつてないほど高くなってきています(相手当事者別)

相手当事者別に見た特徴は、自転車事故の件数の全体の減少傾向の中で、図1にありますように、自転車事故に占める歩行者との事故の割合が時系列的にかなり上昇してきており、1975年以来最大の割合になっている点です。すなわち、1975年から1999年の25年間は1%以下の割合で推移してきましたが、2000年から2011年の間は1%台が続きながらも徐々に上昇し、2012年はついに2%台に乗り、その後2017年まで一貫して上昇し、2018年には3%台に、そして2020年には3.9%と4%に迫ってきています。また、事故全体が減少傾向にある中で、自転車と歩行者の事故の件数自体も近年2,500件以上(2016年を除く)と高止まりの傾向が続き、結果的に割合が突出する形になってきています。以前から歩行者との事故が問題視されていますが、特に、近年は一層その重要性が増しています。歩行者との分離された走行空間の整備の促進や歩道を通行する自転車のルール遵守(車道寄りの徐行と歩行者優先)が極めて重要です。

2.歩行者との事故の発生場所は歩道が4割です(道路形状別歩行者との事故)

では、歩行者との事故はどこで発生しているのでしょうか。表1のように、歩行者との事故は、2006年~2009年は、30%台後半で、以後4割強が続いていますが、5割までには達しません。歩行者との事故の発生場所は、歩道上が近年約4割強であるのに対して、交差点が約2割強となっています。残りは車道や歩車道の区分のない道路等です。自転車事故全体では、交差点で約6割強、歩道で約1割強となっているのに比べて、歩道上が極めて高い割合であることは確かです。このため、歩道での歩行者の安全確保は当然優先するべきですが、その他の場所でも気を抜くことなく、歩行者に対する十分な安全確保を心がける必要があります。歩行者との事故対策は、何よりも自転車が交通弱者としての歩行者を尊重すること、このために、歩道では車道寄りの徐行と歩行者の優先のルールを厳守し、その他の場所でも歩行者と分離された空間の走行の励行や歩行者に対する安全確保を厳に実行することが必要です。

3.歩道上の事故の相手当事者は3分の2以上が自動車です(歩道上の相手当事者別)

また、歩道上の事故の相手当事者別の件数と割合の推移を示したものが表2です。これを見ると、歩道上での事故の相手当事者は、自動車が3分の2以上の状態が続いています(過半が出会頭事故です)。歩道上の自転車事故は、沿道の駐車場等へ出入りする自動車に対して、歩道の車道寄りを徐行することで出会頭事故を防止することができるのです。

ただし、この事故割合は減少(2006年73.7%から2020年65.3%)しており、逆に歩行者との事故割合が急増(2006年6.9%から2020年12.8%)してきています。すなわち、自転車側がほとんどの場合被害者となる自動車との事故の割合は減少していますが、逆に自転車側が加害者となる可能性が高い歩行者との事故の割合が長期的に見て上昇する傾向にあります。このように、事故の件数及び割合の両面から見ても、歩行者対策がより一層重要性を増しています。

4.自転車の一当率がどんどん高くなっています

上記1から3までに関係して重要なのが、自転車事故全体で第一当事者になる一当の率が高くなってきている点です。表3のように2000年には14%程度でしたが、それ以降わずかずつ上昇し、2017年ごろから増加が顕著になり、2020年にはついに20%を超えるに至っています。2001年以来この20年間で20%を超えるのは初めてであり、自転車側の有責の割合が増加しているのです。自転車の無責任な運転態度が改められずに至っており、昨今の改善の必要性が特に高くなっていることを示しています。

事故の場合の自転車側の損害賠償の必要性が増加しているため、事故防止対策と同時に事故が生じた場合の対策として保険加入等の必要性が一層高まっているといえます。

5.事故での自転車側の高い法令違反率が続いています

これと関連するのが、自転車事故における自転車側の法令違反割合であり、2010年以来約65%前後と長期に高止まりの状態になっています(表4)。すなわち、自転車側のルール違反が目に余るといわれていますが、これを示すものとして、自転車事故で現れた自転車側の高い法令違反率の高水準が継続している点です。第一当事者では法令違反率が100%ですが、第2当事者でも違反が相当程度存在しています。これに対しては、今回で明らかになった事故の傾向等に基づき重要な点を明確にし、メリハリを付けた心に響く有効なルールの教育や啓発が必要です。

6.自転車事故をさらに減少させるために必要なこと

以上のように、自転車事故は、①相手当事者では、歩行者との事故割合が増加しており、自転車の高い無傷率(90.3%)と歩行者の低い無傷率(6.5%)[1]の関係から自転車側の加害の可能性が高いこと、②道路形状別では、歩道上での割合が増加していること、③一当率では、自転車側の割合が高くなってきており、自転車側の有責の事故が増加していること、④法令違反率では、自転車側の割合が約3分の2という高い状態が継続していること等のデータを基にして、メリハリのある、ポイントをついた自転車の安全対策を講ずる必要があります。

このためには、表5のようなデータ及び重点対策を、講習会、広報誌等での広報啓発や教育、さらに路上の看板などで、データをしっかりと示し、きめ細かい徹底策を講ずることが求められます。

全体の事故減少下の現状においては、一般的なメリハリのない広報啓発や安全教育、単なるルールの横並びの提示では事故の減少効果が十分に期待できません。

[1] 公益財団法人交通事故総合分析センター イタルダ・インフォメーションNo.78

また、以上からもわかりますように、全体として自転車側が事故に際してより大きな責任を問われる割合がかつてないほど高まってきているといえます。このことは、自転車利用者に対する徹底した広報啓発や歩行者等と分離した走行空間の提供が必要であることを示すとともに、事故が生じたときのための自転車保険の加入の促進や義務化等の必要性を示しています。

文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

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