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2023.06.28

コラム

第17回 クルマや歩行に比べて自転車の危険性は高くない

1.自転車利用を躊躇する最大の理由は「怖い」

世界の自転車計画などの資料を見ていますと、自転車利用が拡大しない最大の理由の一つは、自転車の恐怖感であるといわれています。特に、車道通行しか原則認められていない国では、自転車は車道を通行せざるを得ませんので、クルマと混在した空間において後ろから追い越してくるクルマがある場合に、後ろが見えないため、また、追い越す際の風圧等で過大に恐怖感を感じて利用を躊躇します。これは我が国でも同様ですが、しかし、世界とは異なる歩道通行可というシステムがあるため、歩道を通行することで比較的安心感を持った自転車利用がなされています。今回は、この恐怖感と事故状況について述べます。
我が国では、自転車は車道通行が原則(国の自転車安全利用五則)ですが、歩道通行が可能な歩道も多くあります。ここが世界と異なる点ですが、このことが様々な問題を惹起しています。この歩道では、自転車は歩行者を優先して、車道寄りを徐行(7-8km/h以下)することを大前提にして、通行が認められています。車道走行の恐怖感が強い人は、この歩道空間を利用することが多いのです。これにより、車道しか原則通行できない外国と比べると我が国は歩道に逃げ込み、恐怖感を少なくした形で自転車を利用できますので、自転車に乗りやすい国であると考えている人が多いと思われます。

(1)歩道通行の危険性を知る

まず最初に、自転車が危険であるとされるのは、車道通行でのクルマにより引き起こされる自転車の危険性で、これとの対比で歩道空間の方が安心と考える人が多数でいると思われます。しかし、上のように「恐怖感の少ない歩道空間」は、その安心感も災いして自転車利用についての大きな危険性を生み出しています。第一は、そもそも自転車事故の件数を歩道と車道が物理的に分離されている区間※1で比較しますと、表1の通り、歩道空間の方が車道空間よりも多く、また、近年の歩道上での事故の割合が増加し車道との開きが拡大しています。第二に、歩道上での自転車の事故の相手方は、表2の通り、クルマが6割以上(主に沿道の駐車場等に出入りする歩道を横切るクルマとの事故)を占め、歩行者はその4分の1以下の13%程度です。つまり、クルマが怖いから歩道へ逃げ込んでも、クルマとの事故に遭っており、クルマの危険から逃れる意味が薄れているのです。第三に、これに加え、大きな問題点があります。クルマの恐怖から一定解放されているので、安ど感も生まれ、車両としての自転車を運転するという自覚としての緊張感や注意力が欠如した状態で運転をします。また、ルールを無視した速度で徐行せず走行し、歩道を横切るクルマとの出会頭事故などにより自らを事故の危険にさらしているとともに、本来歩行者のものである歩道において、歩行者を恐怖と危険に陥れているのです。第四に、自転車事故の最も多い交差点での事故(自転車事故の3分の2前後)の多くは、歩道から進入したと見られる自転車であることがデータ※2でうかがわれ、歩道通行からの交差点進入が、最も事故の多い交差点事故の大きな引き金となっているのです。第五に、自転車の通行可の歩道が数多くあるため、自転車が歩道空間で収容されることが常態化し、結果的に車道での自転車専用通行帯や自転車道の整備を一層遅らせてきたのです。
以上のように、歩道通行は恐怖感がないからと言って決して安易に運転すべきではなく、事故の可能性や実態をしっかりと知り、ルールを順守する必要があるのです。これらの点を認識して自転車を利用する必要があります。

※1 物理的に分離されてない区間は車道でも歩道でもない空間ですので、危険性が比較できるのは、歩道と車道が物理的に分離されている区間の事故件数です。
※2 松本幸司「自転車走行環境整備の現状と課題 ~自転車事故発生状況と交差点対策に着目して~」図4

表1 自転車事故発生場所

出典 公益財団法人交通事故総合分析センターに対する依頼データに基づき古倉計算。2017年は同センターに依頼していないので数値はありません。歩道と車道は、柵、縁石等による歩車道の分離区間での歩道と車道です。件数等の詳細は第2回コラムを参照してください。

表2 歩道での自転車事故の相手方

出典 公益財団法人交通事故総合分析センターに対する依頼データに基づき古倉計算。2017年は依頼していないので数値がありません。件数等の詳細は第2回コラムを参照してください。

(2)クルマや歩行中に比較して自転車乗用中の事故は多くはない

次に、自転車が危険といわれるのは、クルマや歩行中に比較して、いわれることが多いようです。これについて、2022年のデータについてみてみましょう。
表3及び表4は、クルマと自転車の乗用中及び歩行中の死傷者数と死者数を比較しやすいように作成したもので、人口当たり(10万人当たり)で比較したものです。表が細かいですが、これでクルマと自転車と歩行中の死傷者数そして死者数が比較できます。

① クルマとの比較

クルマと自転車について、表3の死傷者数をみますと、まず、クルマは自転車に比較して、死傷者数は、全体で3.1倍、高齢者(65歳以上)で2.1倍となっており、クルマの方の死傷数が多いことがわかります。また、年齢層別にみましても、10歳から19歳と85歳以上の層を除くすべての年齢層でクルマの方が自転車よりも多くなっています。全体として、また、高齢者と若年のごく一部を除いたすべての年齢層で、クルマの方が自転車より死傷者数か多いのです。また、表4の死者数を見ますと、クルマは自転車に比べて、全体で2.6倍、65歳以上で、2.1倍となっており、さらに、年齢層別にみますと、10-14歳の層を除き、クルマの方が多く、また、4-14歳と75-79歳の層を除き、2倍以上となっています。なお、これについては、下記2のように、宇都宮市民の日常的な移動距離は、クルマが自転車の1.6倍です。これを参考に考慮しても、クルマが自転車に比較してこの倍率を上回るような死傷者数や死者数が出ていますのが、自転車がクルマよりも危険であるとは言えないと考えられます。

表3 人口10万人当たり死傷者数(年齢層別・状態別)

出典:警視庁交通局「令和4年中の交通事故の発生状況」表2-3-1

表4 人口10万人当たり死者数(年齢層別・状態別)

出典:警視庁交通局「令和4年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」表2-3-1

② 徒歩との比較

徒歩と自転車について、表3を見ますと、死傷者数は全体で徒歩が0.6倍、65歳以上で1.0倍となっており、自転車の方が多い結果ですが、死者数で比較しますと、10-19歳の層を除き、その他のすべての年齢層で歩行の方が多くなっています。また、下記2のように、一般市民が外出する際の移動距離を徒歩と自転車で比較しますと、自転車が平均的には徒歩の2.5倍の移動があります。これを考慮しますと、徒歩と自転車の死傷者数については、移動距離の差を考慮すると事故は多い可能性があり、また、フェイタルな死者数についてみると、徒歩の方が多いと考えられます。

2.手段別の移動距離

1の(2)の①の場合、すなわちクルマとの比較では、移動距離が大きいクルマの方が事故多く発生するものであり、走行距離を考慮する必要があるという議論があり、少し長く複雑な説明になりますが、どうしてもこの点をご説明する必要があります。この点は、筆者がクルマをよく使うといわれる北関東の栃木県宇都宮市の市民に対する自転車利用に関するアンケート調査を実施した結果(回答548人)では、一週間当たりの通勤や通学、買い物等の日常の移動距離は、平均してクルマ23.1km、自転車14.7km、歩行5.9kmです。すなわち、日常生活でクルマは自転車の1.6倍、自転車は歩行者の2.5倍の移動距離です。この移動距離の差を考慮しても、クルマ方の事故件数が多い状況ですので、自転車乗用中の方がクルマ乗用中よりも危険であるとは言えないのです。また、徒歩は自転車に比べて移動距離は明らかに少なく、差があり、これを考慮しますと、死傷者数では徒歩の事故の方が相対的に多くなると推定されますし、かつ、死者数は絶対数が多く、危険である可能性が高いということになります。
ここで、表3及び表4の数値について、クルマは高速道路の事故を含みますので、一般道のみを使う自転車と徒歩の事故と比較する場合、これを除いて考える必要があります。高速道路の走行距離は、日常生活の移動距離よりは大幅に多いので、高速道路の移動距離を差し引いて考慮すると、一般道の単位走行距離当たりの自動車事故による死傷者数・死者数は、もっと高くなると考えられます。また、2022年の自動車乗用中の事故でみますと、全体の死傷者数213,378人、死者数870人ですが、うち高速道路は、死傷者数9,526人、死者数は152人で、自動車乗車中の全体に比較すると、一般道が圧倒的に多いのです。これらを考慮すれば、日常目的の自転車や徒歩の一般道の移動距離に対して、クルマは高速道路の通行を含んだ分距離が延びて、全体の単位移動距離当たりのクルマ乗用中の死傷者数や死者数は小さい数値になると考えられますので、一般道のみの件数はより多いことが推定されます。今回は高速道路分を含んだ数値と、一般道のみを通行する自転車及び歩行とを比較するため、クルマの危険性が過小になって比較されている可能性があります。そういう状況であってもなお、表3及び表4で、クルマ乗用中の死傷者数及び死者数が自転車よりも多いので、宇都宮市民の日常の移動距離の差異を考慮してもクルマの方が自転車よりも危険性が高いことが推定されるのです。なお、今回の検討は厳密に数量的な比較をするものではありません。

3.年齢層別の自転車の利用回数や利用可能距離

~特に高齢者について
次に、年齢層別にみますと、自転車利用回数や移動距離は大きな差異はあまりありません。すなわち、まず、利用回数ですが、表5のように中高生の年齢層である10才代は確かに自転車の利用が通学で多いと考えられますが、これを除きますと、年齢層別に大きな差はないと考えられます。高齢層でも、60才代と70才以上で9.9日と10.4日と全体とほぼ同じです。また、図1は、自転車で移動できる距離を年齢層別にみたものです。これを見ますと、10代の6kmを除き、各年代ほぼ5km前半で、年齢層別に移動可能距離は大きな差がありません。また、65歳以上でも5.1-5.5kmとなっており、それ以下の層に比べて、大きな差がない状態であると言えます。

表5 年齢層別月間の自転車利用日数

出典 自転車産業振興協会「2021年度自転車保有実態に関する調査」(全国N=19946 ウエブ調査)に基づき、筆者作成

図1 年齢層別の自転車で移動可能距離

出典 茅ヶ崎市「自転車利用に関するアンケート調査」2013.7実施 n=1347

このように年齢層別にみた利用回数や利用可能距離に差がないにもかかわらず、自転車乗用中の死傷者数(人口10万人当たり)を年齢層別に見ますと、図2の通り「65歳以上(再掲)」が37.1人であり、これに対して65歳未満の層を見ますと、9歳以下の層を除き全ての年齢層で「65歳以上(再掲)」の方が少ない結果になっています。
以上のように、自転車の利用状況に大きな差がないにもかかわらず、人口10万人当たりの自転車乗用中の死傷者数は、高齢層(65歳以上)はそれ未満の層よりも一般的に少なく、高齢者だから自転車が危険であるとは言えないのです。
なお、よく使われる指標として、自転車乗用中の高齢者層の死亡者数の全体に占める割合が極めて高いことを根拠に、高齢者の自転車利用が危険であるとされます。確かに、全年齢層に対する死亡者割合は高いのですが、クルマや徒歩との比較がなされていないという点が問題です。表4で「65歳~(再掲)」をご覧いただくと分かりますが、10万人当たりの乗用中の死者数では、クルマが1.26人、歩行中が1.95人に対して、自転車は0.61人で、自転車に対して、クルマは2.1倍、歩行は3.2倍となっています。移動手段別の高齢者の死者数を相互に比較すると、一目瞭然であり、相対的に自転車は、これらに比較して少ない状況で、外出を一切しないのであれば別ですが、外出する際には、可能であれば相対的に死亡者数が少ない手段で外出することが大きな選択肢の一つであってもよいと考えられます。

図2 自転車乗用中死傷者数(2022年の人口10万人当たり)

出典 警察庁「2022年交通事故発生状況」により作成

4.まとめ

以上により、利用距離を考慮しても、自転車がクルマや徒歩よりも危険性が高いと推定されないと思われます。むしろ、死亡事故というフェイタルな観点から見ますと、自転車のルールを守って安全に利用して外出することは、生活習慣病やストレス、認知症の軽減、健康寿命の延伸、日常生活の適度の足の確保、さらに高齢者ドライバーの悲惨な事故の防止などに寄与できます。今後、電動アシスト自転車などの現実的な活用も含めて、「主観的に危なそう」に見えるから自転車利用から遠ざかるのではなく、このような客観的なデータも考慮に入れた自転車活用の推進が大きな選択肢であると考えられます。

文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

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