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2022.01.06

コラム

自転車の利用を妨げる要因~荷物があること

1.「貧弱な走行環境」は、必ずしも自転車利用の主たる阻害要因ではありません

前回内閣府広報室の世論調査の結果を引用し、自転車で行ける距離なのに、自家用車を使う、すなわち、自転車利用の阻害要因についてグラフでご紹介しました。一番多いのは①「自家用車の方が早いから」(64.2%)で、続いて多い順に、②「荷物があるから」(51.0%)、③「家族など複数で同時に移動できるから」(37.4%)、④「坂が多いなど自転車の利用が困難」(14.4%)、⑤「自転車や徒歩は疲れるから」(12.1%)、⑥「自家用車の運転が好きだから」(10.1%)と続き、⑦「徒歩や自転車では危ない道が多いから」は8.5%と低い結果でした。「走行環境の貧弱さ」を示す「危ない道」は、このアンケートの質問の選択肢中では7番目で、かつ、「その他」や「わからない」を除くと最下位から2番目となっていました。

また、私ども(公財)自転車駐車場整備センター自転車総合研究所で行いました市民アンケート調査(2020年、全国地方都市4都市)、回答2094人)でも、回答者の中で「自転車で移動可能な距離をクルマを利用している人」(263名)の理由は、グラフの通り、①たくさんの荷物が運べない(51.7%)、②天候で移動できない場合がある(43.3%)、③ついクルマを使ってしまう(36.7%)、④遠い(26.7%)⑤疲れる(26.7%)となっており、その次に、⑥安全・安心に走れる走行環境が整っていない(23.3%)が来ており、走行環境の貧弱さは相対的に低い割合となっています。

自転車で行けるのに、自転車を利用しない、いわゆる自転車利用の阻害要因では、「走行環境」の危険性や貧弱さというインフラの脆弱性よりは、時間的に遅い、荷物が運べないなど、自転車のマイナス面が多く指摘されています。走行環境というインフラの未整備が自転車の阻害要因として低い割合である理由やこれに対する対応など自転車固有の要因でないインフラの阻害要因等については、対応するのに費用と時間がかかりますが、後の回のコラムで説明したいと思います。これに対して、「たくさんの荷物が運べない」など自転車固有の阻害要因については、一つ一つ丁寧に対応すれば費用や時間をあまりかけないで取り除ける可能性があり、また、その努力が必要です。今回は、後者の自転車固有の阻害要因のうち前回ご説明しました「自家用車の方が早いから」という要因に次いで、「たくさんの荷物が運べない」という要因について、解説したいと思います。なお、この阻害要因は、内閣府の世論調査や当研究所のアンケート調査でも共通して、自転車利用の阻害要因として高い割合となっています(内閣府調査で2番目、当研究所調査で1番目に高い割合となっており、いずれも50%超です)。

2.本当に自転車で運べないほどたくさんの荷物が常にあるのでしょうか

(1)日常の買物での荷物の量は自転車で運べる量である場合が多い

まず、荷物が一番多いと思われる買物について、多くの人がどのような買物量になっているかについて調べた過去のデータがあります。内閣府の都市再生モデル調査(古倉ら担当)で宇都宮市での買物行動について、自転車とクルマの来店者に対して当日の買物の量と金額についてアンケートした結果があります。

これによりますと、自動車で来られた方は郊外店と中心市街地店の回答者の平均で、それぞれ、2.8レジ袋及び1.8レジ袋の買物をしているのに対して、自転車で来店された方は、郊外店では回答者がおられなかったのですが、中心市街地店では1.8レジ袋となっています。

まず、自動車で来られた方の買物の荷物の量ですが、いずれも平均で3レジ袋以内で、特大のレジ袋でない限り、荷物を積んで自転車でも十分に帰宅できそうです。また、中心市街地店において、自転車で来店した人も自動車と同じく1.8レジ袋です。自転車とクルマでの来店者が同じだとすれば、ほぼクルマ来店者も自転車でも帰れる買物量といえるでしょう。私も郊外店で買物をしている人を日頃見ていますが、大型の買物でもしない限り、日常の食料品などでは、自転車で行けないような荷物の人は多くはないと考えられます。

いずれも、一般的には、買物袋では、2つか3つ程度で、この程度であれば、わざわざクルマでないと困難であるケースは多くないと言えそうです。本当にクルマで来ないといけないような大型の買物はクルマで来ることは当然のことかと思いますが、平均的な荷物の量ですと、自転車の利用の一般的な阻害要因にはなりにくいと思います。たくさんの荷物が運べないというのは、必ずしも自転車で行かない理由にはなりにくいと考えられます。

また、重い荷物の場合、例えば、食料品の中でもコメなどを購入することが多い方は、電動アシスト自転車の活用でたいていの場合は対応できます(静岡県袋井市での電動アシスト自転車モニター調査)。自転車先進国は、こぞって電動アシスト自転車を国策として利用を推進しています。また、イギリスの国家自転車ビジョン(2020年策定)では、カーゴバイクという荷物を積むことができる三輪の自転車は250kgまでは積めると記載しています。我が国のママチャリではここまでは積載はできないとしても、ある程度の荷物は荷台と前かごがあれば対応できます。

仮に、たまに大型のものや大量のものを購入するときに、たくさんの荷物が運べないことはあっても、これがすべての場合に現出し、自転車とクルマを使い分けできないものではないと考えられます。

すなわち、自転車とクルマの両方を使うことができる人 (冒頭のグラフの「自転車で行ける距離の場合に自転車を利用しない理由」を回答した人)についてみると、重いもの又はかさばるものを購入する場合又はその可能性がある場合にのみ、自転車で行かずにクルマで行くという使い分けをすればよく、荷物がたくさん運べないからクルマをすべて選択する理由にはなりえないと考えられます。

(2)買物の場所までの距離

これに加えて、通常荷物が最も多いと思われる買物についてみますと、「実際の買物をする場所までの距離」と「買物目的のために自転車で行ってもよい距離」について、当研究所で茅ヶ崎市民を中心にアンケート調査をしました(2021年)。

これによりますと、買物に外出する人(回答者110人)で、「実際の買物をする場所までの距離」の平均は3.3kmであるのに対して、「自転車で買物に行ってもよい距離」の平均は2.8km(自転車で約11分)でした。「実際の買物の場所までの距離」の平均が、「買物に自転車で行ってもよい距離」の平均を上回っていて自転車での買物が難しいように見えますが、個々の人の回答を見てみますと、84%の人は「買物に自転車で行ってもよい距離」の範囲内に「実際の買物の場所までの距離」が収まっているのです(たまたま実際の距離の方が長い人が相当に遠くに出かけていたケースが一定あったのです)。

日常の買物に自転車で行ってもよい距離を答える場合は、帰りの買物の荷物の量を頭に置きながら考えるものと推定できますので、通常の買物では自転車で帰る際の荷物を想定した結果、85%の人が「行ってもよい」と考えていると思われます。だとすると、日常の買物において自転車で行ける買物の荷物の量は、多くの場合織り込み済みであり、多くの場合には「荷物が多い」ということにならないと考えられます。このようにみてきますと、「荷物が多いから」は、自転車が利用できるのにすべてクルマを使ってしまう生活習慣の「言い訳」にすぎないように見えてきます。

3.利用者と店舗の両方にメリットがある

以上のことから考えますと、自転車で買物に行ける場合に、自転車を選択するというごく普通の「使い分け」は十分可能であり、また、この使い分けが着実になされれば、自転車の利用促進に効果のあることも明らかです。ただし、クルマに依存している生活習慣の人には、これを啓発するだけでなく、具体的に誘導する方策が必要であると考えられます。

(1)買物での使い分けを誘導する方法

高齢者の方や体力のない方、子供さんを連れて買物される方などに、行政が電動アシスト自転車の購入の補助やレンタルを用意することで、「たくさんの荷物が運べない」という点を解消することができます。いくつかの自治体では、電動アシスト自転車の購入の補助(滋賀県守山市など)や貸付の制度(さいたま市など)が設けられています。さらに、利用者と店舗の双方に次のようなメリットがあることをもっと広報啓発し、それぞれが積極的にこれに従った行動を取るよう促す必要があります。

(2)店舗側のメリット

店舗側の方で自転車での来店を推進することにはいくつかのメリットがあります。一つ目は、自転車での来店者の購入金額です。宇都宮市のアンケートでは、自転車と自動車での来店者を比較すると、次表のように1回当たりの購入金額はクルマの来店者の方が大きいのですが、来店回数は自転車の方が多い結果となっており、これを掛け合わせると自転車の来店者の方が1週間当たりの換算では多くなっているのです。つまり、自転車での来店の増を図ることは、売り上げ増に貢献する可能性があるのです。

また、茅ヶ崎市の中心市街地に近いスーパーでのアンケート調査では次表のような結果でした。

ここでは、自動車の来店者の方が1回当たりだけでなく、1週間当たりでも、自転車の来店者を上回っています。しかし、1週間当たりでも金額に差はありますが、決して自転車の売上が大幅に少ないわけではありません(2割強程度の差)。

また、来店回数は多く、店舗のにぎわいづくりに貢献しています。さらに、これを60歳未満と以上に分けてみますと、上の表のような結果になります。すなわち、60歳未満では、クルマでの来店者の方が1週間当たりでも多いのですが、60歳以上では逆転して、自転車での来店者の方が多いのです。今後超高齢社会が進行すれば、この層の売上げ増が期待されます。

二つ目のメリットは、自転車での来店は、クルマの駐車スペースを大幅に減らすことできるという点です。特に、中心市街地の店舗では、駐車スペースの確保は地代やガードマンの費用等を考慮すると大きな負担になります。全国のスーパー事業者に対するアンケート調査(回答91社)では、店舗のための駐車場のコストに負担を感じる事業者は32%、やむを得ない50%、負担に感じない10%となっています。やはり、「やむを得ない」を含めて考えると大きな負担であることは確かです。

三つ目は、店舗の高評価につながるといったメリットです。カーボンニュートラルで、かつ、健康増進を推進するには、クルマでの来店を少なくし、自転車での来店を促すことが、店舗のスタンスとしても今後重要視されるでしょう。このためには、店舗側が自転車での来店を促すために自転車を優遇することが必要です。例えば、自転車により来店した人の買物について、クルマでの来店での駐車場のコストを削減できた分の割引券等の発行や自転車来店ポイントの付与 (クルマの駐車場の料金の割引程度)などの実質的な優遇策が大きな効果があると考えられます。

(3)来店者のメリット

クルマによる来店に比べて、自転車来店には本人の身体活動を伴いますので、生活習慣病の予防等の健康効果が期待できるのは当然ですが、次のようなメリットがあるのです。

具体的に試算してみますと、片道2km往復4km(自転車では片道8分)の自転車での来店を仮定しますと、クルマでの1回当たりの来店によるガソリン代42円(国土交通省の1500ccクラスの平均燃費を基に概算)及び身体活動が生活習慣病の予防になることによる医療費として190円(国土交通省都市局健康医療福祉のまちづくりガイドライン参考資料を基に概算)を削減でき 、そして、さらに二酸化炭素排出量532g (国土交通省原単位で概算)の削減ができるのです。(なお、この具体的な数量的効果は、後の回のコラムでもっと全般的かつ具体的にご説明する予定です)。もちろん、ポイントが店舗側から付与されれば、その分メリットも上乗せされます。

4.「荷物が多いから自転車を使わない」ではなく、「荷物が多少あるから自転車を使おう」

以上から、「荷物が多い」から買物に自転車を使わないではなく、むしろ、その分の運動量が増加しより健康になることで医療費の負担を回避でき、また、ガソリン代分の利益を受けることになり、かつ、環境にも貢献できるのです。これは、年間に換算すると大きなメリットになります(上記のように週3回を片道2km8分の買物に行くとすれば、ガソリンと医療費で1回当たり232円(42円+190円)として年間156回で、36,200円の費用と二酸化炭素83kg程度の削減に換算できます)。行政も自転車走行空間の整備を最重点にするのみらならず、このような阻害要因の解消のためのソフトなストーリーを設定し、住民や商業事業者に対する啓発や誘導等の自転車の阻害要因の解消策を講ずることが、健康寿命の増進を含めて、超高齢社会に対応した現実的な自転車活用推進施策であると言えましょう。

文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

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