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2022.01.28

コラム

自転車の利用を妨げる要因~「目的地が遠い」「疲れる」と天候

1.自転車利用の阻害要因と「貧弱な走行環境」について

(1)自転車利用の阻害要因は「貧弱な走行環境」より自転車自体の持つマイナス面が多い

ここ何回かのコラムでは、自転車利用ができるのに自家用車を利用する人の自転車の利用を妨げる要因(自転車利用阻害要因)について、果たしてこれが阻害の要因かどうか、そして、その解決方策に関して情報を提供しています。前回は、この阻害要因として最も高い割合で選択されている「荷物がある」ことが自転車を利用できるのにその利用を妨げる大きな要因であること、しかし、自家用車でなければ運べないほどの荷物があるケースは少ないことをご説明しました。荷物があることは、自転車で行ける場合にすべて自家用車を利用するような要因ではないということになります。これに加えて、自転車での来店は、店舗側と自転車で来店する側の両方にメリットが大きいことをご説明しました。市街地内での駐車場の空間の確保(自転車はクルマの1/6以下)、周辺渋滞・交通事故等の軽減のほか、一週間当たりの買物金額が自転車の方が大きい可能性があるという店舗側のメリットなどがあります。なお、「オランダ自転車ビジョン」(オランダ自転車大使館2018年策定)でも、金額は示してはいませんが、自転車による来店者の方がクルマによる来店者よりも3倍の売り上げがあり、中心市街地の地域活性化に大きく寄与できるメリットがあるとしています。オランダならではのきめ細かい具体的なメリットの提示であると思われ、このような具体の数値を表示するなどで自転車活用による買物推進の参考にしたいものです。

さて、市民アンケートで「自転車の利用を増やすための条件」について質問をすれば、次のグラフのように、市民一般の回答では、安全快適な自転車走行空間との答えがおおむね第一位を占めるケースが多く、これを基にして自転車の走行空間の整備を第一にする自治体が多いのです。

しかし、この「走行空間の整備」は、自転車利用を促進する要因であり、自転車が利用できる人が利用しない「利用阻害要因」ではありません。この違いは、前者は、あくまで自転車を利用する人もしない人も、また、クルマしか使わない人などもすべて含んだ市民意向を表しているのですが、後者は、「自転車利用ができるのに、実際はしない」人の自転車利用をしない要因についての回答です。実際に自転車で行ける距離を自家用車を使って行く人が、自転車と自家用車との比較で回答しています。このため、自転車と自家用車を比べた場合、時間や荷物、坂道や天候という比較できる自転車自身が持つマイナス点が重要視され、自転車自身が持つマイナス点以外、すなわち、走行環境などを考える人は必ずしも多くはないというふうに理解できます。

このため、効果的に自転車の利活用の推進を図るには、自転車を利用して行けるが実際には行かない人を対象にして、そこに焦点を当てた利用促進策の方が、自転車を利用できる人及びできない人全体を対象にした一般的な施策よりは、具体的な利用促進の効果を得られる可能性が高いと考えられます。

(2)自転車の利用推進要因と利用阻害要因は異なる

すなわち、自転車を利用する客観的な条件がない人を含めて、自転車を利用した場合のメリットを説明したり、又は、利用促進のためのインセンティブを用意する施策を考えても、あまり効果があるとは言えないと考えられます。このために、自転車活用推進策を考える際には、この微妙な差異をしっかりと理解して、「自転車で行けるのに、自転車で行く」ことを妨げる要因を明らかにして、割合の高い阻害要因から順番に解消又は減少させるような対策(主にソフト施策が中心になると思われます)を考えていくことが効率的な利活用推進策かと思われます。

すなわち、これらの人は、自転車の利活用者の予備軍で、条件によれば、利活用者に転換する可能性が高い人たちです。このように自転車で行けるのに自家用車で行く人に絞ってより突っ込んで質問して、真に何が求められているかを明らかにし、この答えをもとに施策を講ずることが効果のある方法であるといえます。

(3)ハードの走行空間の整備はもちろん重要

このアンケートの結果は、自転車走行環境を軽視すべきであることを示すものでは決してありません。自転車施策について、一般論として、利用促進のための自転車の走行空間や駐輪空間のインフラの二本柱の整備を用意することは、世界の自転車政策でも当然重要です。しかし、それでは、インフラを用意したからといって、すぐに皆さんがどっと自家用車をやめて自転車を選択してくれて、自転車利用が一気に増えるものではありません。自転車が利活用できない人もたくさんおられますし、利活用できても、利用阻害要因を持つ人も多いのです。前者の人にいくら自転車のメリットを啓発しても限界がありますが、後者の人は前者の人よりも可能性が高く、あるいは効果が期待できます。走行空間や駐輪空間はあくまで基礎的な条件であり、むしろ、重要なのは自転車で行ってもよい思う場合の条件を絶えず意識し、ハード面とソフト面のバランスの取れた施策をとること、その際にソフト施策を重要視することです。これをしないとインフラというハード重視で他の施策は付足し的な自転車施策になってしまいます。いずれにしても、ここでは、ハードの空間整備を最優先に考えるのではなく、より効果的に自転車の活用が推進される方策を考えることが適当かと思われます。前回及び前々回でご説明したアンケート調査結果によれば、荷物があることに次いで、「目的地が遠い」、「疲れる」や天候など自転車自体が持つ弱点が指摘されることが多いのです。

2.利用の阻害要因として「目的地が遠い」又は「疲れる」

それでは、今までは、これらのあまり前面に出てこない阻害要因である「目的地が遠い」又は「疲れる」並びに「天候で移動できない場合がある」という自転車の自身の持つ特性について、取り上げたいと思います。なお、「天候」については、すでに自転車駐車場整備センターのホームページの「CYCLE PARK 駐輪場かんたん検索」の中のコラムで取り上げておりますので、簡単に触れます。

(1)「目的地が遠い」「疲れる」は目的ごとに距離が異なる

ここで取り上げているのは、自転車で行ける距離でも自家用車を使う人に対してのアンケートの回答です。自転車で行けないことはないが、遠い又は疲れると考えて、クルマを選択することが、アンケートの結果等からも、阻害要因になっていることは事実です。自転車での移動可能距離(いわゆる自転車をこいで行ける限界距離)内でも、このように感じることが多くあると思われます。「遠い」又は「疲れる」は、この自転車で行ける限界距離内についての回答で、肉体的には限界距離の内側でも行きたくないとの気持ちが阻害要因と考えられます。

そこで、自転車での可能距離(限界距離)ではなく、自転車で行ってもよい距離、すなわち、限界距離の内側で、行ってもよいと意欲を持てる距離は別であるとの仮説でアンケート調査を実施しました。この「利用してもよい距離」は、体力的に限界までの距離内でも、たとえば、通勤通学などのように日常的かつ行かねばならないというと気持ち的には短くなり、趣味や娯楽では多少無理しても好きなことをするので長くなると仮定し、目的ごとに「利用してもよい距離」を聞きました。アンケート調査は、宇都宮市と茅ヶ崎市でそれぞれ2019年と2021年に実施しました。これの平均距離と個々の回答者の実際距離と利用してもよい距離を比較したカバー率の集計結果は次のようなものです。なお、ここで「自転車を利用してもよいと思うカバー率」というのは、アンケート調査の回答者の方がその利用目的(例えば買物、通勤など)ごとに最もよく行く目的地までの実際の距離とその目的のために自転車を利用してもよいと思う距離とをそれぞれの回答者ごとに比較して、「自転車を利用してもよいと思う距離」が「実際の距離」以上である、すなわちカバーしている人の割合をいいます。

これらによりますと、自転車を利用してもよいと思う距離の平均は、いずれもスポーツ・体操では6.0kmと24.4km、趣味・娯楽では、5.9kmと6.8kmと、他の目的よりも長く、また、日常での利用の買物では帰りの荷物かあるなどで3km前後、これから仕事があるなど通勤で4km前後と短くなっています。しかし、各回答者の目的ごとの「自転車を利用してもよいと思う距離」が「実際の距離」以上の人のカバー率を見ますと、日常利用で最も多い買物では、目的地までの実際の距離に対する「利用してもよい距離」のカバー率がそれぞれ67.5%と85%となっています。また、同通勤では、60%と47%となっています。このように、日常よく行く目的までの平均の距離は異なるものの、行ってもよい距離のカバー率は、かなり高く、多くの場合には、半数以上が実際の目的地までの距離の範囲に入っていることがわかりました。もちろんこれは「利用してもよい距離」ですので、「疲れる」という阻害要因を加味した回答であると考えられます。このように「遠い」又は「疲れる」という理由は、多くの場合、半数以上の人には当てはまらないことになります。

なお、同時に注目すべきは、設定した仮説として、目的ごとに自転車を利用してもよい距離が24.4㎞が明らかになったことです。従来のアンケート調査では、自転車で行ける距離を一律に質問してきましたが、これはどちらかという上で述べたように、肉体的な限界距離を想定しています。このため、目的は関係なく、自転車での移動限界距離を基にして、自転車で移動できる距離を考えてきました。しかし、楽しい目的やレジャーのように非日常的な利用形態では、自転車を利用して行ってもよい距離は長くなります。これに対して、日常的な利用形態で移動が定型的に行われるような場合などは、利用してもよい距離は短くなると考えられます。特に、帰りに荷物がある買物目的のような場合では、その距離は短くなっています。このことから、自転車で行ける距離の範囲内で、自転車を利用して行きたくなるような誘導策があれば、利用してもよい距離が増える可能性があることは間違いがなさそうです。

(2)遠い又は疲れるを解消する方策としての自転車を利用してもよい距離の延伸

このように考えますと、仮に遠い又は疲れるという要素が一部にあるとしても、これらは、次のような方策を取ることで、解消又は軽減できます。

①電動アシスト自転車の活用

電動アシスト自転車は、我が国では坂道対策が主流ですが、平坦な土地が多いヨーロッパでは国の自転車施策の重点の一つとして取り組んでいて、むしろ高齢者の利用促進と距離を延ばすことに主眼があります。我が国でも、このことに注目して調査しましたが、自転車の距離や行動範囲を拡大できることは、袋井市での調査で明らかです。すなわち、電動アシスト自転車を半年以上利用されたことがある高齢者に対するアンケート(回答95名)を実施しましたところ、次のような結果が出ました。なお、実際に電動アシスト自転車を利用したことがない人を対象にしても、現実感がなく、正確な答えが出ませんので、これを利用したことがある人に限定して調査しました。

グラフの結果から見ますと、電動アシスト自転車で行動範囲が広がった人及び外出回数が増加した人が過半数もあり、さらに、表の結果から見ますと、行ってもよい距離も、普通自転車は平均2.4kmに対して電動アシスト自転車は平均3.9kmであり、比較すると1.6倍(3.9km/2.4km)となっています。これらのことから、電動アシスト自転車では「利用してもよい距離」は大きく拡大する可能性があります。「遠い」及び「疲れる」が解消され、「自転車で行けるのに自家用車で行く」人達のなかで自転車利用に変える人が多くなることは明らかです。(これは、荷物や勾配などにも効果があることはもちろんです)。

②利用目的ごとに自転車利用のインセンティブを考える

上記(1)のように、利用目的ごとに自転車を利用してもよい又は自転車で行ってもよい距離は異なります。趣味や娯楽のための自転車利用はインセンティブがなくとも、それ自体がインセンティブとなり、疲れずに、距離が伸びます。また、別の機会に詳しくは説明しますが、通勤では、クルマの通勤手当に比べて自転車を優遇することで立ちどころに自家用車通勤から自転車通勤が大幅に増えた例が、名古屋市や豊橋市の各市役所の職員について見られます。これは、実際には自転車で行ける距離であるのに、通勤手当が同じなため自家用車通勤をしていた人が、通勤手当に差をつけたため(名古屋市では、距離によって、自転車を2倍に、自家用車を半分にして、差は4倍になりました)、自家用車から自転車に切り替えた人が多かったのです。ここではソフトの経済面の優遇が大きいのです。

買物では、自転車来店者のポイントの付与などが効果的です。スーパー等の商業事業者も自治体の指導があれば来店者割引で協力してもよいとするところが多くあります(自転車駐車場整備センター「先進的な自転車施策の導入可能性及び自転車駐車場のあり方に関する調査」2001年度では、全国的商業事業者回答91のうち約50%)。

日常用務では、例えば公共施設自身が健康や地球環境のために自転車での来所を促すように啓発することも必要です。クルマの駐車場のみを増やすのではなく、自転車の駐輪場を入り口にすぐ近くに設けるなどで目に見えて優遇する方法もあります。某市では、職員の自転車通勤を奨励するために、駐輪場は庁舎すぐ近くに、クルマの駐車場は離れたところに設けるなどしています。

通院の場合は、担当医師があなたの健康のために自転車での来院を含めた日常利用を推奨し、がんや心臓病、脳血管病などの予防になるとの指導をするような連携も考えられます。英国の国家自転車計画2020年では、地域住民の健康状態の悪い地域ではかかりつけ医と連携して自転車利用を進めることを施策の一つにしています。かかりつけ医が、あなたにとって自転車が生活習慣病・認知症の予防にいいですよとアドバイスするのは、行政が一般の人に向かって自転車は健康にいいですよというのに比べて、実効性ははるかに高いと思われます。なお、ここでも、電動アシスト自転車は有効です。身体活動量は普通自転車に比べて7分の6程度でそれほどのそん色はないことがわかっています。疲れが少なくて、しかも、相当の運動量をこなせるのです。

3.「天候」について

(1)降雨の日数は意外に少ない

自転車は雨に弱いとされています。しかし、実際時間雨量1mm以上の雨が朝の通勤通学の時間帯に降った年間の日数は、東京駅では、平日237日のうちで26日(11.0%)しかない(2020年)ことは、すでに当センターのホームページ(上記)でも取り上げています。1mmの雨は、傘をさしている人もいればいない人もいる程度の雨です。これ以上の雨は、平均では、月に約2日で、梅雨の時期の6月から7月に集中しており(10日38%)、これを除く10カ月の平均では朝の通勤通学の時間帯の降雨は月に1.6日になります。意外と雨は少ないのです。

(2) 降雨でも雨具等で自転車利用をする人がたくさんいます

また、雨の日でも、ポンチョ、レインコート等を着用して自転車で出かける可能性について、アンケート調査をしたところ、1mm程度の少雨の場合74%、やや強い雨(※)の場合26%など相当の割合の人がポンチョ、レインコートなどの雨具を着用して自転車を利用するとしています。逆に、雨具を着用しても出かけないとする人は、17%に過ぎません(茅ヶ崎市民122人、当自転車総合研究所「自転車の活用による自動車依存型地域社会の転換方策に関する調査研究業務(2年目)報告書」p3-130)。※1mm/h以上5mm/h未満の雨で、ほぼすべての人に傘が必要な状態

また、駐輪場に来場している人26名についてアンケート調査を実施したところ、半分の13名の人はポンチョを着用して来場していることがわかりました(NPO法人自転車政策・計画推進機構JKA補助事業報告書「自転車のIoT化の促進のためのICタグ導入に関する実証実験業務」報告書p76、東京都江東区豊洲駅前地下自転車駐車場)。

いずれの場合も雨の場合に雨具等を着用して自転車を利用しておられる方が相当数おられることがわかります。このことから、日頃から日常の自転車利用をしておられる方は、豪雨などを除いては、雨に対しては雨具等での対応が可能である場合が相当あるのです。自転車をあまり使われない方が、雨を過剰に恐れていると思われるケースも一定数あると思われます。

(3) 雨で自転車通勤ができないときは代替手段

さらに、雨の場合に通勤できないケースについては、自転車通勤をしている人はどのようにしているのでしょうか。通勤通学では経路や目的地は一般的には同じでしょうから、雨具を付けないで他の手段で行く場合のことを想定しておけば、対応できると考えられます。実際に、自転車通勤の人に雨の日の対応方法について、アンケート調査をしたことがありますが、表の通り、徒歩で20%、自転車で28%、バスで17%などでの対応をしていることがわかります。

以上により、「雨があるから」という自転車利用の阻害要因は、日数的にもわずかであること、また、雨具等の利用で実際の利用者は相当数が対応していること、さらに、代替手段を用意していることにより、決定的な要因とはならないことがわかります。雨があるからすべての自転車の利用をしない理由にはなりえないのです。

(4)降雪について

現在の日本では、雪については、自転車の対策を講ずることは、困難と思われています。しかし、世界の先進地域では、これに対する優遇策を考えているところもあります。例えば、デンマークのコペンハーゲンでは、早朝に雪が降った場合には、自転車道をまず優先して除雪し、その雪は、自転車及び歩行者の通行を優先するために、車道側に排雪するようです(写真)。行政も、自転車の活用を推進するために、自転車利用者をバックアップしてくれているのです。このため、このような状態の寒冷地でも、写真のようにして降雪時も多くが通勤しており、年間の自転車通勤率は75%になっています(コペンハーゲン市資料)。また、写真を見ると、寒冷地でも利用できるタイヤをつけて自転車通勤していますし、また、クルマはずっと列をなして低速で通行しているようです。ここまでの誘導策を講ずれば、雪が降ろうが、槍が降ろうが、クルマよりも早く行けそうですし、天候に関係なく通勤することができそうです。行政が、クルマよりも自転車の通行を実質的にサポートしているから余計に自転車利用者はメリットを感じるのでしょう。なお、自転車の雪用のタイヤは日本でも販売され、一部では使用されています。

以上のように、「遠い」や「疲れる」という自転車利用の持つ独自の特徴に関する阻害要因や「雨がある」などの自然要因に関する阻害要因は、すべての自転車利用を不可能にするものではありません。これに対する適切な対処方法(自転車利用に対する優遇措置、雨具、代替交通手段、電動アシスト自転車、さらに自転車を利用できない雨の日は意外に少ないといった具体的な情報提供など)を地域の実情に応じて工夫し、的確な情報や的確な誘導策等を提供することが望まれます。

様々な阻害要因を仕方ないものとしてあきらめていては、自転車活用の推進策は進みません。阻害要因の一つ一つを地道に丁寧に解消して、自転車への転換を図るよう工夫と努力をするべきです。

文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

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