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2022.04.20

コラム

【第7回】自転車の利用促進の要因その2~自転車のメリット:健康

1.見過ごされている健康の重要性

前回は、自転車を利用することにより得られる利益・メリットを、自転車通勤について、①時間面、②経済面(金銭面)、③健康面(医療費)と④環境面(二酸化炭素排出量)の四つの側面から、自家用車通勤と比較して、具体的に試算した結果を説明しました。

このように、追加の時間と費用をかけずに、多面的な利益が同時に得られ、かつ、生活習慣病、認知症の予防に必要な運動量をこなせる移動手段は、自転車以外にはありません。特に、距離的に日常の生活圏の移動をカバーできるメリットも重要ですが、もっと大切なことは、生活習慣病、認知症、ロコモ等の罹患の可能性が低くなることは、何にも代えがたい大きな利益であると考えられます。

(1)健康の維持の大切さが理解されていない

しかし、「健康」というと、特に若い世代の人からは「現在私はどこも悪いところがなく、病気と無縁の健康状態である」として、その重要性は一定理解していても、日常生活での健康の維持の必要性に対する現実感がないと思われます。このため、健康の維持に不可欠な身体活動の必要性の認識が欠如している人が多いと思われます。健康はこれが減少又は喪失して初めてその大切さがわかるのですが、こうなった段階ではもとの健康状態に完全復帰はできないことが多いのです。その症状が出る前の相当長い期間において、徐々に身体がおかしくなってきているのに、人間ドックなどで具体の数値にも表れないことなどにより、身体活動(運動)をしないで、放置するという人が多いと思われます。

しかし、筆者である私も、最近まで人間ドックの結果の数値は良好で、このため特に悪いところがなく、健康だと思っていました。これが大きな誤りで、人間ドックの際に、たまたま実施したオプション検査で心臓の冠動脈や首の頸動脈の閉塞が指摘され、手術や治療を余儀なくされました。コレストロールやこれがたまることによる心臓や頸動脈、大動脈の状態が人間ドックの一般検査の数値に明確に表れないで、徐々に心臓や頸、脳、大動脈の血管にたまり、これを塞いできたのです。しかし、これは悪化することはあっても、元の健康状態には戻りませんので、継続して治療をしなければなりません。また、死亡原因の3分の2を占め、かつ、死亡原因の1位の状態が継続している悪性新生物(がん)は、3人に2人がかかるといわれる国民病の時代となっています[1]。小さながん細胞が体内で徐々に大きくなってきて、1cmぐらいの大きさになってようやく発見することができますが、この大きさになるためには10-20年かかるといわれています[2]。がんは高齢者になる前からどんどん体内で進行していることになります。

[1] 日本経済新聞2022年3月16日夕刊中川恵一東京大学特任教授「花粉症、がん死亡率半減」

[2] 日本経済新聞2021年6月30日夕刊中川恵一東京大学特任教授「懸念される「超進行がん」

(2)身体活動の重要性が理解されていない

がん、心臓血管系及び脳血管系の三大疾病等の生活習慣病の予防のためには、自転車こぎを含めた身体活動の日常的かつ量的な確保が重要であることは学術的に明確になっています。厚生労働省の「身体活動基準」において、若い時からの一定量の身体活動の継続が生活習慣病、認知症、ロコモ等のリスクを軽減できるとはっきりと書かれています。役所がこれだけ明確に断定するのは、それだけ、因果関係が明確であります。国は、若い時からの身体活動と食事と禁煙等の継続で、全国民的に健康寿命を延ばしてもらうこと等を目指しているのです(健康増進法に基づく「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」。いわゆる健康日本21)。

(3)現状の心身の状態のマイナスになることの防止が大切

ここで、現在の健康状態よりも体力や筋肉、運動能力の向上などを増進する、つまり、現在の体の筋肉や骨格、体力等の状態のレベルを上げることと生活習慣病、認知症(若年性を含めて)等の罹患により、現在の身体の状態からマイナスになることとは意味が異なります。現在健康状態が良好な人は、健康増進とはレベルを上げることであり、プラスアルファと理解し、体力、運動能力等の向上は各人の自由、選択に任されていると考える人が多い。しかし、先に述べましたように、身体活動すなわち運動の継続的な不足は身体の健康状態を悪化させ、生活習慣病等のリスクを高めていくことであり、これを回避することは老若男女を問わず万人の願うところです。

厚生労働省の「身体活動基準」は、身体活動量の増加により、循環器疾患・糖尿病・がんなどの生活習慣病、認知症、ロコモなどのリスクを下げることができること、メンタルヘルスを含めた体の不調の改善・予防などができること、これの不足による肥満や生活習慣病発症の危険因子の除去の効果があることなどのために、これを18歳以上の国民に推奨しているのです。

(4)自転車の運動と身体活動

後述しますが、この「身体活動」の中で自転車こぎというのは、まさに、この現状の体の状況を生活習慣病などの発病によりマイナスの状態に陥らないようにするための典型的な国民的運動形態です。したがって、自転車に乗る場合、これによる移動と同時に必要な身体活動量の多くが確保され、生活習慣病、認知症等の予防ができるという利益を受けることになるのです。これを通じて、簡単に人生100年時代のための健康寿命の延伸とウェルビーイングを獲得できるのです。

2.身体活動による具体的な生活習慣病の予防効果

この生活習慣病等のリスクの軽減の効果がどの程度あるかについては、日本では自転車についての疫学的な研究成果を幅広く紹介するケースが少なく、かつ、あっても断片的なものです。これに対して、自転車の利活用の推進が図られている世界の国々では、特に研究の成果を生かして、国の自転車計画の中で、大々的かつ詳細に紹介しているケースが多くなっています。

例えば、2020年のコロナ禍の中で策定されたイギリスの国家自転車ビジョン(正式には、「Gear Change A bold vision for cycling and walking」英国交通省。ほとんどの内容が国の自転車ビジョンを記述)では、身体活動の生活習慣病等の予防効果として、図のような内容を掲載しています。これは、英国の健康省が2019年10月16日に出したレポート「Physical activity: applying All Our Health」(身体活動―われわれすべての国民の健康のために)に掲載されている内容に基づいて記載しているのです。

出典 英国交通省「Gear Change A bold vision for cycling and walking」2020 p10

この自転車ビジョンでは、「多くの人が運動による健康利益を認識していない。自転車や徒歩のような運動が、がんや心臓病、2型糖尿病、うつ病を含む、20以上の持病や病気を予防し、コントロールすることに役に立つ。英国の死亡者の6人に1人は運動不足が原因で(喫煙と同程度)、英国において年に74億ポンド(国民健康保険の9億ポンドを含む)もの経費が掛かると推定される。」と書かれています。これを見ますと、多くの種類の生活習慣病等について、日常的な身体活動を実施することにより、各種疫学調査に基づいて、病名ごとのリスク軽減率を明示して紹介しています。具体的には、認知症30%、股関節症68%、うつ病30%、乳がん20%、大腸がん30%、二型糖尿病(注 後天性糖尿病)40%、心臓血管疾患35%、トータルの死亡率30%のそれぞれのリスクの軽減の可能性の最大値が紹介されています。ここでは、「日常的な身体活動」としていますので、たまに実行しても効果がなく、毎日に近い頻度で身体活動をすることが前提になっているものと考えられます。なお、我が国の厚生労働省が2013年に作成した「健康づくりのための身体活動基準」では、生活習慣病等のリスク軽減のために必要な身体活動の量は示されているものの、それぞれの疾病等について、どの程度の割合でリスクが軽減されるかまでは示されておりませんので、英国の国家自転車ビジョンはかなり突っ込んだ形での啓発になります。

また、2018年にオランダで政府と民間との共同で作成された「オランダ自転車ビジョン」でも、「毎日の自転車利用は肉体のフィットネスを強力に推進するとともに、健康寿命の3か月から14か月の範囲の延伸が期待できる。また、毎日30分の自転車利用は、推奨されている一週間の身体活動の量的レベルを満たすとされている (出典De Hartog, Jeroen Johan, et al. (2010), “Do the health benefits of cycling outweigh the risks?” Environmental health perspectives 118.8 (2010): 1109.)。これにより、ガンのリスクを40%、心臓病のリスクを52%、若年の死亡率の40%超を削減できる」とされています。

このように、具体的なデータを示して、個別の生活習慣病等のリスクを軽減できることを国の計画で明確にうたっていることが極めて重要です。計画を策定して公表するのは、行政が自ら実施する内容を国民に示すだけの役割ではありません。この英国の自転車ビジョンに示されているように、実際に自転車を利用するのは、行政ではなく、国民自らであり、彼らが幅広く利用して、初めて健康効果、環境効果、経済効果、時間効果等を享受できるとしているのです。一番の当事者である国民が理解し、納得して行動に出ることが最も必要とされるのです。このためには、国の計画の中で、広く個々のすべての国民の身体の利害に直接かかわりのある生活習慣病、認知症、ロコモ等を防ぐことを訴えることが最重要です。国民は、若い時からこれら生活習慣病等のリスクを軽減することの必要性と可能性を具体的に認識することにより、身体活動が推進されます。

3.わが国での身体活動は足りているか

このように身体活動の効果は明らかになっていますが、現実の国民の身体活動の状況は、例えば、イギリスでも上記の国民健康報告の中で、「34%の男性及び42%の女性は良好な健康維持のための身体活動量が十分ではありません」としています。

これに対して、わが国の若年層から中年層についても同様で、身体活動の欠如が目立ちます。厚生労働省の運動習慣に関する調査において、「運動習慣」のある者の割合は、全年齢層について、男性で33.4%、女性で25.1%しかなく、しかも、若いうちから必要な身体活動の継続実施が必要とされる64歳以下の世代では、男性23.5%、女性16.9%ともっと低いのです。65歳以上の人は、様々な疾患にかかっていたりして、健康に対する意識が高いこともあると思われ、64歳以下の人よりは相当に高いのですが、それでも、運動習慣のある人は半数以下であり、全体的に低水準です。これでは生活習慣病等のリスクを抱えて、健康寿命の延伸に大きな支障があることは確かです。また、これにより国民医療費は膨らむことになります。

出典 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」回答者数2174人 ※「運動習慣のある者」とは、1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者を指します。この「運動」は、「身体活動」よりは、狭い範囲と思われますが、いずれにしても、身体活動の不足を示していると理解できます。

4.様々な身体活動の中で自転車が生活習慣病等の予防に最適である理由

前にお話ししたことがありますが、自転車は国民の多くの人々の身体活動の中で、最も向いています。このようなメリットは他の方法でも得られるということであれば、わざわざ自転車推進に重点をおくことにならないと考えられますので、生活習慣病等のための身体活動として最適であることを説明します。

まず、厚生労働省の「身体活動基準」では、「循環器疾患・糖尿病・がんといった生活習慣病の発症及びこれらを原因とする死亡」や「メンタルヘルス、認知症」の「リスクを減らせる」と記載されていますが、しかし、どの程度減らせるかは明示されていません。この数値は、国民が自転車を利用しようとする大きなきっかけとなると思われます。単に一般的に健康に良い、生活習慣病の予防効果があるなどでは、具体性を欠き、訴求効果は低いと考えられます。

また、いくら、身体活動が生活習慣病等のリスクを大きく軽減できることを知らされても、特に若い世代を中心にして、自分は健康だと思い込んでいる人たちは、あまり実感がなく、実践に至る効果は少ないのでないかと思われます。これを実践にまで持っていくためのストーリーや誘導が必要かと思われます。

(1)健康の観点からの自転車利用の促進のための基本的な条件

まず、身体活動ががん等の生活習慣病などのリスク軽減に効果があることを理解しても、実践には結びつかない理由を理解して、身体活動を推奨する必要があります。

すなわち、上の厚生労働省の国民健康・栄養調査では、「運動習慣の定着の妨げとなる点」についても調査していますが、これによりますと、次のような原因があると回答されています。

表 運動習慣の定着の妨げになる原因

出典 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」回答者数2,174人

これを見ますと、3位の「年をとった」は高齢者に当てはまりそうですので、一般的ではありませんが、1位の「時間がない」と2位の「面倒くさい」は全体の人を通じて運動習慣のないことが主要な原因と考えられます。これを解消するとともに、運動習慣の欠如の危険性を啓発すれば、運動習慣のある人を増やせる可能性が高くなります。

(2)継続してできる条件

これを含めて国民の幅広い層において、継続して身体活動(運動習慣)を実施できるには、次の4つの条件が必要であると考えられます。

  • 国民の幅広い層での生活習慣病等の軽減のためには、なるべくたくさんの人々が実践できる運動形態であること、
  • 若い時から長期継続して実施できる運動形態であること(期間が長ければ長いほど効果は高いとされます)、
  • 「身体活動基準」にある一定の運動量を確保できる運動形態であること、
  • 忙しくて時間がない、面倒くさい等を可能な限り払しょくしてできる運動形態であること、すなわち、生活時間や生活費が限られている中で、追加の時間や費用がないこと(運動習慣の妨げになる原因としての「時間がない」こと及び「費用などの支払いの負担がない」こと等で面倒くささを最小限にできること)

(3)これらの条件の検討

それでは、これらの条件を可能な限り満たす身体活動はあるのでしょうか。これを検討していきます。

  • 「たくさんの人ができる」運動形態

これについては、ラジオ体操は国民的な運動形態ですが、その愛好家の人口は2,800万人といわれています(全国ラジオ体操連盟2018年)。自転車を日常的に利用する人はこれを大きく上回る5,007万人と推計されています[3]。これは、通勤通学での利用のほかに高齢者等を含めた買物や日常用務、趣味娯楽、営業のための利用も含まれます。

[3]ルーツ・スポーツ・ジャパン「サイクリスト国勢調査」2021による。15-74歳(平成27年国勢調査で9363万人)のうち、自転車に乗ったことのある人は7593万人(81.1%)、サイクルツーリズムや日常での自転車利用する人は5007万人(53.5%)と推計されています。インターネット調査で、全国1万人の自転車利用の実態を調査した結果で推計しています。

  • 「若い時から長期継続」して実施可能な運動形態

通勤通学や買物その他の用事等のための外出は、一般的には全年齢層で若い時から継続して必要不可欠です。特に、通勤通学では一週間で日常的に移動が行われます。その他買物、用事等は高齢者を含めて身体活動のできる人は、生活のために外出が必要で日常的に長期に継続します。

  • 「運動量の確保」ができる運動形態

必要とされる運動量は23メッツ・時/週(高齢者では10メッツ・時/週)ですが、これをすべてこの移動で充たせなくとも、相当の割合が実施できればその他は日常の身体活動(家事、散歩、階段の昇降など)で充たせると考えられます。自転車での外出では、例えば通勤通学ですと、片道30分を週5回自転車にのる(下記の表 4.0メッツ)とした場合、上記必要量の約87%を消化できます。なお、ラジオ体操(第二)(4.8メッツ)は、毎日1回週7日間実施するとしますと、身体活動基準での必要量の25%程度消化できますが、自転車に比較すると身体活動量は少ないのです。

  • 「時間がない、面倒という状態を払拭してできる」運動形態

スポーツの場合ですと、フィットネスジム、テニス、ゴルフなど、料金が必要なケースが多く、また、時間も他の生活時間を削って行う必要があります。このため、特に仕事や家事に忙しい生産年齢層や子育て世代等では、継続性や時間とお金でつまずきます。自転車ですと、通勤通学や買物など今までやってきている生活に必要な移動行為の最中に実施できます。今までの生活での移動行動の自転車の量を増やす又は自転車に転換すれば足りますので、費用や時間を新たに生み出す必要はありません。これで時間がない面倒を大きく払拭できます。

(4)通勤、通学、買物等などは自転車で行くには距離が長すぎないか

通勤通学等の距離が長い人は自転車を利用できないことがありますが、前回ご説明しましたように、宇都宮市や福島市・静岡市、茅ヶ崎市でアンケート調査した結果では、約半数以上の人の通勤距離が自転車で可能であるとされる5km以内の距離でした。

仮に、「自転車で行ってもよい距離」を上回る長い通勤距離の場合には、最寄り駅の隣の駅まで自転車又は通勤途上の比較的安い駐車場等を借りてクルマの残りの一部を自転車で行くことで、身体活動ができます(オランダ等の例)。また、買物等では、自転車で行ってもよい距離の範囲の場所で日常買い物をしている方が多数おられますので、かなり多くの人をカバーできると考えられます。第5回のコラムで、自家用車を使う人が全国的にも多い宇都宮市でのアンケート調査で、自転車で買い物に行ってもよいと思っている距離の範囲内に普段行くスーパー等がある人は67.5%もいましたので、自転車は多くの人の買物のための移動距離をカバーしています。

(5)自転車こぎは、「時間がない、面倒だ」をクリアできる最適な身体活動

以上から、自転車での身体活動は、可能な限り国民の多くの人が参加でき、かつ、長期継続性もあり、相当の運動量も確保でき、さらに余分な時間とお金を生み出す必要もない最適な身体活動であると言えます。

なお、表の「健康づくりのための身体活動基準2013」によると、自転車こぎの運動7種類を含めて計97種類の形態の身体活動(生活活動+運動)が、その単位運動量とともに記載されています。

表「健康づくりのための身体活動基準2013」65歳以上10メッツ・時/週 18-64歳23メッツ・時/週

出典 健康増進法に基づく基本方針「健康づくりのための身体活動基準」の参考資料2-1、2-2(3M以上の運動)を古倉整理

この中の「身体活動」を見ますと、「運動」の欄では、ゴルフテニスなど一般の人が追加の費用と既存の生活時間を削らなければできないものがほとんどで、新たに身体活動に着手しようとする人にとって、必要な運動機会を確保することが難しい運動形態です。また、「生活活動」(掃除、雪下ろし、耕作、農作業などや大工仕事、電気工事などの仕事での活動)では、一部の人にその可能性がありますが、一般の人が一週間に何時間もの身体活動量を確保するのは容易ではありません。

さらに、日常の運動としてよく推奨されるスイミングやジョギングについては、自転車と比較した場合、これらは通勤通学買物中に不可能ですし、ジョギングは膝にかかる体重が大きいので、高齢者に多い膝や股関節等が悪い人は難しいことや行動範囲や持続時間も短いといったマイナス点があるとされています(下表参照)。さらにウオーキングは総運動量が少ないとされていますし[4]、これに加えて、「股関節には常に体を支えるための負荷がかかり、歩くときには加速度もついて体重の4~5倍の負荷がかかって」、「体重60kgの人が歩けば、股関節にかかる負荷は240~300kgにもなる」といわれています[5]

[4] 山崎元ら「中高年ためのスポーツ医学」(世界文化社)

[5] 日本股関節研究振興財団理事長上馬整形外科クリニック院長別府諸兄氏の言 「股関節を守る鉄則を伝授! 人工股関節のメリット・デメリットは?」日経Gooday2022.2.15号

表 主な有酸素運動の比較

出典 山崎元ら「中高年ためのスポーツ医学」(世界文化社)や一部英国自転車推進機構資料により古倉整理

注 ハッチの部分は、メリットに相当。

上の表では、これらに加えて、自転車は、膝や腰の悪い人でも、膝にかかる体重が0.3倍と他に比べて軽減され、また、絶えず座っていける運動機会を得ることができるので、外出の機会を制限されがちな高齢者にも身体活動と外出の移動手段を確保できる利益・メリットがあります。

 

5.自転車こぎの身体活動確保の効用と欠如の危険性のセットでの啓発

以上のように、自転車は、運動の時間がない、面倒だという運動習慣のない人を含めた幅広い国民層が必要量の身体活動を継続することができ、生活習慣病、認知症、ロコモ等のリスクを確実に軽減できる運動なのです。

ただし、現在または将来避けて通れないがん等の生活習慣病、認知症などの身体面のリスクに対して大きなメリットがあることだけを強調しても自転車利用への誘因として完全ではありません。これを自ら今すぐに実施しないと自らの身体の危機の可能性どんどん高まることをしっかりと認識できるようにする必要があります。がんや心臓病、脳血管系の障害、さらに認知症にかかりたい人は誰もいないと思います。身体活動の欠如による様々な生活習慣病等の危険性が進行すること並びに自転車が最適な機会を提供できる最適手段であることをセットで具体的な啓発をしないとその効果は得られません。健康面、とりわけ生活習慣病等の予防に寄与できる多方面のメリットを持った自転車であることともっと切迫した自分のこととして受け取れるように、メリットと生活習慣病等の危険性・可能性をセットで具体的に説明することにより、自転車の利用促進の大きな要因となるのです。

なお、ここで参考になるのは、2020年の英国国家自転車ビジョンです。健康度が低い地域をいくつか選んで、地域の医師と自転車部局がタグを組んで、医師のところにやって来た患者に自転車にもっと乗りなさいという指導をするモデル事業を実施するとされています。かかり付けの医師から生活習慣病等の恐ろしさと自転車の利用の予防効果を説明され、その利用を名指しで指導されたら、地域での自転車への転換の効果が高いと思われます。

文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

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