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2022.03.16

コラム

自転車の利用促進の要因~メリットと見える化

1.利用の阻害要因と促進要因を区別する

前二回では、自転車利用を促進するに当たって、自転車の利用を促進する要因(促進要因)と自転車の利用を阻害する要因(阻害要因)が混同される傾向にあり、これらを区別して施策を考える必要があることを述べてきました。そして、まず、後者の阻害要因に焦点を当てて考察しました。住民や利用者のアンケート調査の結果から、「自転車で行ける目的地でも自動車を使う」という人に焦点を当てて、自転車を利用しない阻害要因として重要視されているものを個別に取り上げ、これに関する実態や意識等を示すデータをご紹介し、説明しました。自転車で行ける目的地に自動車で行っている人(回答者数263名、全国4都市)は、すでに走行空間の状況は織り込み済みであり、回答した自転車利用の阻害要因で多いのは、①「たくさんの荷物が運べない」(51.7%)で、以下②「天候で移動できない場合がある」(43.3%)、③「ついクルマを使ってしまう」(36.7%)、④「遠い」(26.7%)、⑤「疲れる」(26.7%)の順となっていました。この回答では、「安全な走行空間の欠如」は6番目(23.3%)で、メインの要因ではないことがわかりました。③は、本人のクルマ依存した生活習慣であり、別の機会に検討するとして、その他の要因については、二回にわたり一つずつ具体的なデータで考察しました。これらの阻害要因は本当に現実的なのか、また、決定的なものか、対処の方法はないのか等について、多面的に検討しました。
結論から言いますと、これらについては、例えば自転車では買物で「たくさんの荷物が運べない」という要因は、考えられているほど一般的に買い物の荷物はたくさんではないことをアンケート調査結果で示しました。また、買物の目的地までの距離は平均して近く、より自転車で行ける可能性が高いことなども示しました。このように、そのような阻害要因は、決定的なものではなく、又は、誤解されている面もありました。さらに、仮に一部にそのような要因があっても、クルマと自転車を的確に使い分けることとこのための具体的な啓発と優遇があれば対処できる可能性が高い(前出コラム『自転車利用を妨げる要因~荷物があること』並びに『「目的地が遠い」「疲れる」と天候』を参照してください)。一つ一つを個別に見れば、客観的には、多くの人が言うような決定的な阻害要因ではないことがわかりました。そして、個人や会社、自治体等でこれらの要因について理解が進むとともに、積極的に解消策を講ずれば、もっと多くの人の自転車への転換が図れるものと理解されます。
また、仮に阻害要因となっていたとしても、その阻害要因の解消又は軽減によって自転車の転換の可能性がより高くなり、効果的な方策を検討できるものと考えられます。
ここで、「安全・安心に走れる走行空間の欠如」については、インフラという公的部門の整備の問題であり、自転車の持つマイナスの特性に直接起因するものではなく、したがって自転車利用者の側の要因ではありません。まずは、このように自転車で行けるにもかかわらずクルマを利用している人の自転車側の要因に対して焦点を当て、自転車独自の持つマイナス面の阻害要因をしっかりと分析し、その対処の方策を考えることにより、「自転車で行けるのにクルマを利用する人」を「自転車で行く人」に転換してもらう高い即効性と有効性があると考えられます。

2.自転車利用の促進要因

しかし、ここで阻害要因のみの解消だけでは、自転車利用ができない人、又はしたくない人などの幅広い積極的な参加は望めません。かつ、長期的な目標を持った有効で安定的な利用促進策を講ずることはできません。ここに利用の促進を図る「促進要因」を阻害要因と区別して検討する必要があるのです。ただし、同じ項目でも、「安全・安心な自転車走行空間」などは両方の要因になり得ます。上述のアンケートでは「荷物が多い」という点は阻害要因の最大のものになっていましたが、逆に「荷物が少ない」ことは、促進の要因には一般的にはなりにくいと考えられます。また、促進要因として重要な「ハードの走行や駐輪インフラ」の整備などについては、多数のアンケート調査でもトップになっていますが、すでに多くの方策が提案されていますので、別の機会に譲りたいと思います。本稿では、この利用を促進要因としてソフト面で重要な自転車利用により得られる様々な利益の広報啓発策を中心にして、具体的に順次取り上げていきたいと思います。
我が国の地方公共団体の多くの自転車活用推進計画では、自転車により得られる利益を重要視して説明しているものの、通り一遍の簡単な説明で具体的かつ斬新なものが少なく、また、主体別や種類別にあまり整理して提示されていません。この結果、同じような内容が、他の同種の計画と横並びかつランダムに並べられて記載されています。やはり、体系的に具体的な利益を掘り下げて説明するのが、より分かりやすく自転車への転換の促進に効果があるものと理解されます。

 

3.自転車利用により得られる利益(全体の体系)
                         ~時間、医療費及びガソリン代と二酸化炭素排出量

そこで、まず自転車利用により得られる利益について、主体別に体系的に整理をすると次の表のようなものになります。少々込み入っており、また、重複などもありますが、市民に自転車の利用を呼び掛けるためには、対象を明確にし、その対象が得られる利益に的を絞って啓発することが効果的です。自分に直接関係してこない利益を訴えられても、自転車利用促進の効果は低いのです(これは、地球温暖化対策のために自転車の活用を推進する場合などで別の問題をはらんでいます)。

表1 自転車利用により得られる主体別・種類別の利益

この表で、例えば、個人については、経済面として、移動に係る費用について、購入費、運行費等を含めての削減、環境面として、自家用車の運行に際しての環境負荷やその他公害の削減など、健康面として、生活習慣病等の軽減、健康寿命の延伸など、時間面として、移動時間の節約による自由時間等の増大、総合・その他の面として、生活質の向上、災害時の帰宅手段、社会参加のアクセス容易化による機会の増大(特に都市部では、駐車場がなく文化講座などは公共交通などによる参加を要請されます)などがあります。同様に、企業では各種費用の削減や健康経営の容易化等、地域・自治体では、健康保険費用医療費の削減、観光を含めた地域活性化、生活質の向上などがあります。このように、多様な主体ごとに、多種類の利益があるような移動手段は自転車をおいてほかにはありません。他の移動手段、特に、クルマとのメリットやデメリットの比較は改めて別の回で提示します。これらの利益を逐一ご説明することには、紙面の制約もありますので、重要なもののみ取り上げて、今後機会を得てご説明します。今回は、クルマから自転車に転換した場合に個人が受ける経済面と時間面のメリット(一部比較できるようにデメリットを含めます)と地球が受ける二酸化炭素排出削減のメリット(同時に、これを企業が自転車通勤を奨励して、多くの自家用車通勤の人が全部または一部について、自転車に転換した場合の企業が達成できる社会貢献としての二酸化炭素の削減)について、具体的な数量の試算をご説明します。

4.個人が受ける経済的な利益と二酸化炭素の排出量の削減への寄与

まず、移動に必要な総所要時間と自転車を利用することによる医療費削減効果、そして、ガソリン代の節約並びに二酸化炭素排出削減です。この計算は、国土交通省作成の移動距離と所要時間のグラフが20世紀末のデータに基づいていますので、それより後に出ました論文(小川ら)により、道路整備が一定進展してクルマの旅行速度が17.5km/hから20.0kn/hと上昇しており、また、自転車は15km/hで変化がないので、3kmより短い目的地の場合には自転車の方が早く、また、医療費削減効果 (40歳以上の人)とガソリン代及び二酸化炭素の排出量の削減を具体的に表示しています。これらを具体的にしっかりと広報啓発して、転換を図る必要があることになります。
そこで、これを1km刻みの距離別に表を作成して、自転車の利用を住民にお願いするものとします。例えば、3km先の目的地までは、自転車で16分、自家用車で16分かかります。同じですが、意外とクルマとの差がないこと、さらには、渋滞などがあった場合の影響がないことを認識してもらえばいいと思います。結果として、自転車はクルマと同じ往復時間32分で、身体活動をしながら移動するため、医療費削減効果(40歳以上)が往復285円(48円/km)と試算できます。また、ガソリン代は往復64円及びこれに伴い二酸化炭素も798g削減できます。片道4kmでは、自転車で片道20分往復40分、クルマで片道19分往復38分と往復で自転車が2分多くかかっていますが、医療費の削減384円/日、さらに、ガソリン代は、一往復で85円/日、二酸化炭素を1,064g削減できることになり、かつ、自家用車通勤と比べて、医療費・ガソリン代・二酸化炭素の削減がある一方で、ほぼ同じ時間で通勤できることが確認していただければよいのではないかと思います(表2)。これを毎日貯金箱に入れておけば、コツコツと経済的なメリットの効果を実感できるとともに、忙しい日常生活で特別の時間を生み出さなくても、ほぼ通勤時間を使って貴重な運動ができることを理解していただけます。

表2 自家用車から自転車に転換した場合の1往復の所要時間、ガソリン代、二酸化炭素排出等の比較(試算)

また、上の表2は、一日の単発の移動ですので、得られる利益がわずかのように感じられるかもしれませんが、例えば、年間の平日を246日としますと、それぞれの距離を通勤している人が自家用車を自転車に転換した場合には、表3のような削減又は節約を図ることが可能となると計算できます。
これを見ていただきますと、仮定計算ではありますが、例えば、片道4kmを年間の平日246日通勤した場合、自転車での所要時間は自家用車よりも1回当たり片道1分多くかかり、年間で8.2時間の通勤時間が多くかかりますが、渋滞などの影響はなく、また、これにより継続して一週間5回の往復で、医療費が一人当たり約93千円、ガソリン代21千円、二酸化炭素の環境負荷261kgの削減が可能となります(表3)。まさに、11万円余の金額(実際の健康保険による自己負担分は人に応じて、1~3割)と健康効果そして地球に貢献ができるのです。

表3 通勤において自家用車から自転車に転換した場合に得られる年間の利益
(2020年の平日の年間日数246日として計算)

5.通勤距離が長い人についての方策

なお、これらは自宅から5km以内の通勤距離の人ですが、もっと長い距離を通勤しておられる方もおられると思います。過去の市民アンケート調査によれば、市民の通勤距離の分布は次のようになっています(表4)。一般的に通勤が可能と考えられる5km(片道20分)以下の人の割合は、茅ヶ崎市で63%、宇都宮市約46%、福島市・静岡市で約64%となっています。約半分以上の通勤者が5km以内であると考えられます。かなりの割合の人が表2・表3に該当しそうで、この表が現実的であることを示します。

表4 各都市での市民の通勤距離(各アンケート調査)

ただし、通勤距離が5kmを超える人も相当数おられますが、これらの人については、前に述べましたが、自転車と公共交通の組み合わせで、少し離れた別の駅やバス停まで自転車で行って、身体活動量を確保することにより、一定の効果が得られます。又は、自家用車の経路のうち自転車の可能な距離を自転車に転換すること、すなわち自宅又は会社から適当な距離で駐車場の料金の安価な途中の場所を選んで駐車場を確保して、そこから先を自転車で行くなど一部の距離の距離をクルマから自転車に乗り換えることで、同様の効果が得られます。
自家用車通勤の全部又は一部をこのような形で転換することを検討すれば、自分の健康と財布と地球に大きく貢献できるのです。

6.地球温暖対策に家庭から全体でどの程度貢献することができるでしょうか

このように表2や表3及び表4で自転車の利益等を具体的な数値で提示するとともに、自転車利用の実態や利用者の目的ごとに自転車で行ってもよい距離を把握することにより、自分は意外と自転車で行っても得をする上に、現実にその可能性があることが理解できます。このように具体的な数値を距離ごとに示せば、現実的に自転車の利活用に対する個々人の理解が進展し、全体として利活用が進むものと考えられます。
さらに、先の表の注でも述べましたが、カーボンニュートラルに関しては、下の図表のように、家庭からの二酸化炭素排出量は、2019年度で一世帯当たり3,971kgとされています。仮に4kmの自家用車通勤を自転車に転換すると、この3971kgのうち、上の表3のとおり年間262kg分の削減となりますので、一家庭の全体3,971kgに対し6.9%、また、自家用車からの排出は1,048kgとされていますので、これに対し25.0%を削減できる計算になります。

このようなことが自転車の利活用への大きな動機となり、市民の間に浸透することが期待できます。自転車の利活用を進めるためには、このような具体的な広報啓発やしっかり市民に定着するような方策をあらゆる機会をとらえて講ずることが必要です。そしてこれと併せて基本であるインフラの整備も当然合わせて行う必要があります。
なお、このように自転車で行ってもよい距離の範囲でも、大きな利益が自分にも地球にも得られることがわかったわけですが、これ以外にも、健康増進や生活習慣病の予防を含め多様な自転車利用のメリット・効果があります。これらを一つ一つ丁寧に示すことが、自転車の利用の促進要因になります。次回もこのような自転車の利益・効果を可能な限り具体的なデータを示しながら、効果のある啓発にチャレンジしていきたいと思います。

文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

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