国勢調査からみる通勤通学時の自転車利用の動向②
~都道府県別の動向~
1.都道府県別の自転車通勤通学(自転車のみ)の状況
前回は、通勤通学時の利用交通手段の全国の状況を比較して、過去と比較してお話をしました。今回は、都道府県別の状況について、分析をしたいと思います(常住地ⅰ)。
(1)都道府県別の「自転車のみ」の分担率~トップは大阪府、2位は京都府
全国の通勤通学手段のうち、「自転車のみ」(ドアツードアで自転車により通勤通学すること)は、都道府県別に見た場合に、どのようになっているかを調べました(表1)。
表1 2020年国勢調査の自転車のみの都道府県別順位
まず、都道府県別の順位ですが、これを見ると、大阪府がトップであり、これに次いで、京都府、さらに愛媛県と続いています。大阪府は、昔から自転車利用が盛んなところですが、京都府も、これに次いで、特に学生が多い京都市内を中心にして、自転車の利用が盛んです。次いで、愛媛県3位や高知県4位、そして、広島県7位、岡山県8位、香川県9位、兵庫県10位、徳島県11位が続きます。いずれも、瀬戸内地方又は四国地方に属し、気候が温暖で少雨、平野部を一定有している県で自然的な条件が利用を支えているものと考えられます。これらの間に、東京都5位及び埼玉県6位の首都圏の都県が入ります。なお、多くの人口を抱える政令指定市がある三大都市圏の県では、愛知県12位がこれらに次ぎますが、首都圏の千葉県19位や神奈川県20位は、中位の県となっています。千葉県は東京に近い部分は自転車利用が盛んですが、それ以外との落差があると思われ、また、神奈川県は公共交通が発達しており一定の部分はこれによって通勤通学が行われていると考えられます。なお、自転車利用が盛んなオランダやハンガリー及びデンマークの自転車の分担率は、それぞれ26%、19%及び16%ⅱですから、大阪府などはこれに比較すると一定は高い水準であると言えます。なお、自転車のみの分担率が低いのは、長崎県47位及び沖縄県46位となっています。前者は、坂が多いまち長崎市を有すること、後者は気候が自転車利用にあまり適さないなどが原因かと思われます。
これらから見ると、政令指定市を抱えるような三大都市圏の都府県は一部を除き、都市の密度が高いことを背景にして、交通混雑、駐車場の不足、比較的短い移動距離等のため、自転車での移動にメリットがあると考えられること、地方の県では、自然的な条件が自転車に適か又は不適かなどの要因により、自転車の分担率が比較的高くなる、又は低くなることが考えられます。
(2)2000年及び2010年と2020年の比較
次に、2000年、2010年及び2020年の調査ごとに、全体では自転車のみの割合が落ち込んでいることは、前回ご紹介しましたが、都道府県ごとに各年の結果を比較してみたいと思います。表2の通りです。表が細かくて見にくいですが、あえて、各都道府県で分担率のデータを見ていただくことができるように、全部の都道府県について、三回分の分担率が比較できるように作表してみました(表2)。ピンクのカラーが入っている部分は、前期と比較して増加している部分です。これを見てみますと、3つの特徴があります。
第一に、2020年分を2010年比較すると、すべての都道府県で人数及び割合がマイナスになっています。国勢調査が行われた2020年10月前後では、コロナ禍で都市部の都道府県で自転車利用が盛んになっているなどの報道やアンケート調査がありましたが、都道府県レベルでみると、全体的には、大都市部の都道府県を含めてマイナスになっています。この中で、青森県-3.55%、愛媛県-3.54%、高知県-3.39%、秋田県-3.11%など、地方の県がマイナスの程度が大きくなっており、逆にマイナスの程度が少ない都府県としては、沖縄県-0.03%、神奈川県-0.27%、大阪府-0.52%となっており、以下奈良県、東京都、千葉県などとなっています。最近自転車の活用推進策に取り組んでいる沖縄県はほぼ横ばいであるほか、大都市圏での落ち込みが少ないことが分かります。コロナ禍により大都市圏での蜜を避けての通勤通学が行われて、全体の落ち込みに比べて、その程度が少なく、結論的にはほぼ横ばいの割合であるともいえます。特に、東京都は、常住人口が最大であるにもかかわらず、-0.56%(全国で下から5番目)となっており、コロナ禍の影響を受けて、自転車通勤通学が推奨され、自転車通勤通学が盛んに実施され、全体での落ち込み傾向を一定カバーしたのではないかと考えられます。
第二に、さらに2020年分と2000年の20年間の割合の長期的な増減についてみますと、まず、減少率の激しい県は、全国の減少幅が-2.28%に対して、①秋田県-6.42%、②山形県-5.69%、③岩手県-5.61%で、以下④青森県、⑤新潟県など東北地方や北陸地方など地方の県で落ち込みが激しい結果となっています。逆に、割合でプラスの都府県として、大阪府∔1.2%、沖縄県∔0.4%があり、さらに、奈良県-0.08%、以下神奈川県、兵庫県、東京都など大都市を持つ都道府県がマイナスではありますが、全体よりは割合の増減幅が小さい都府県が多く見られます。
第三に、これらをまとめると、大都市を擁する都府県においては落ち込み傾向が少なく、逆に地方は全体を上回るような大きな落ち込みがある道県がみられ、二極化の傾向が読み取れます。それぞれの地域特性に応じて、施策展開のあり方を考える必要があります。
表2 国勢調査通勤通学時移動交通手段(自転車のみ)の分担率(2000年、2010年及び2020年)減少幅の大きい順
出典 各年の国勢調査の通勤通学時利用交通手段(都道府県別)に基づき計算
2.鉄道・電車及び自転車の割合
次に、自転車駐車場の利用需要に関係する「鉄道・電車及び自転車」の利用状況についてお話しします。これは、自宅から駅まで自転車で行き、そして鉄道・電車に乗って職場・学校の最寄り駅まで行くもの、又は、職場・学校の最寄りの駅まで鉄道・電車で行き、そこから自転車で職場・学校まで行くものです。前者はアクセス利用、後者はイグレス利用と言われます。なお、ある自転車駐車場で調べましたら、前者と後者の比率は、85対15でしたⅲが、駅によっては異なります。この通勤通学形態には、結節点にある駅周辺の自転車駐車空間が必要です。
これを見ますと、割合が高いのは、大阪府5.44%、埼玉県5.35%、東京都4.62%の順で、以下、千葉県、兵庫県、奈良県、愛知県、神奈川県、京都府、滋賀県(以上2%以上)となっています(表3)。
三大都市圏の都府県に集中しており、地方圏では、極めて少ないことがわかります。地方圏では、自家用車のみの通勤が多く、鉄道・電車の駅を利用することが少ないためと考えられます。
表3 鉄道・電車及び自転車の都道府県別順位(2020年)
出典 2020年国勢調査通勤通学時利用交通手段により計算
3.都道府県別の自転車利用の傾向と今後の在り方
(1)全体の傾向
これらによりますと、まず、大阪府や京都府などの大都市を擁する都府県や自転車利用に適した自然的な環境を持つ県では自転車通勤通学が一定盛んですが、その他の地方の道県や自然条件的に自転車利用に適しにくい県は、自転車利用が盛んではない傾向が読み取れます。
また、長期的な推移としては、自転車利用の低下傾向がみられる県が東北地方などを中心に顕著です。逆に、大都市を擁する都府県では、低下傾向がみられますが、わずかにとどまっており、自転車利用が相当程度継続して行われているといえます。
また、今回の国勢調査は、コロナ禍で行われましたが、すべての都道府県で、「自転車のみ」の割合が低下していることが分かりました。コロナの影響で、自転車のみの通勤が国を挙げて大いに推奨された最中でありましたが、この中で、特に自転車通勤が盛んな大都市部、例えば東京都や大阪府などでは、コロナ禍で在宅勤務などが増加した割には、他の道県に比較して自転車のみの落ち込みの程度が低く、コロナ禍での自転車通勤の推進が一定の利用につながったものと見ることもできます。これらを除けば、全体の傾向としては、コロナ禍の影響があっても、自転車の減少傾向は否定できず、大きく落ち込んでいる県も多数見られます。
(2)都道府県別の動向から今後の在り方を考える
まず、国全体として自転車利用の減少傾向については、我が国のみではないのですが、脱炭素社会の形成や健康寿命の延伸など人類の重要な課題に対処して国民自ら貢献できる切り札として一層自転車利用の重要性が増しています。日常・非日常での生活の移動に際して、まず自転車の利用を考え、その利用ができないときにはじめてクルマを考えるという自転車利用優先の発想を定着させることが必要で、このような発想を広く共有する自転車文化を創出することが提案されています(ドイツ第三次国家自転車計画(2021年4月)では特に重要視していますⅳ)。
次に、都道府県別に見ますと、三つのパターンに分けられると思います。①分担率が高い自然的な条件のある地方の県は、自転車利用の素地はあるのですから、これを生かしてサイクルツーリズムのみならず、日常利用をもっと伸ばすことができるはずです。②また、都市部では、自転車の方が早く到着できる、駐車場が10分の1以下の面積で済むなどのメリットを生かして、生活習慣病・認知症の予防、健康や脱炭素の社会の形成のために、活用することを優先する必要があります。③逆に、自転車利用が大きく落ち込みつつある地方の県では、地方の足の確保と高齢者の健康寿命の延伸や免許返納後のために、電動アシスト自転車などを含めた自転車を活用した自転車文化の形成をより推進することが必要です。一度電動アシスト自転車を利用すると、その移動距離や移動範囲が拡大して、手放せない人も出てきます(静岡県袋井市の例)。自転車での身体活動 (電動アシスト自転車でも普通自転車の6/7の運動量は確保できます)により、医療費削減効果が期待され、この医療費相当分で電動アシスト自転車の購入費用は十分賄えます。このままでは、クルマを運転できなくなる世代の足の確保や健康の維持に大きな支障が出ることにもっと危機感を持つ必要があると思われます。このため、これらに共通して先述した自転車文化の形成・幅広い国民への浸透という発想の転換が求められます。
次に、施策のあり方としては、明らかに自転車利用の動向や環境が異なる地域を一つの均一の施策体系とするのは、無理があり、効果や効率の点で期待したものが得られないと考えられます。ドイツ国家自転車計画では、第二次及び第三次の計画において、自転車利用が盛んな都市部とあまり盛んでない地方部に分けて、目標値の設定や施策の体系のあり方などを異なるように設定しています。このような環境差と地域差を考慮した施策の設定なども参考にして、より効果的効率的な施策展開を図ることにより、減少傾向にある自転車活用の動向を上向きにすることができると考えられます。
文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治
ⅰ常住地は、自宅の住所のある場所で、これに対して従業地・通学地は、自宅外で通勤・通学している場所をいいます。
ⅱヨーロッパサイクリスト連盟資料(ヨーロッパ国別自転車戦略の状況(2021年))による
ⅲ豊洲駅地下自転車駐車場(回答数174)2020年調査
ⅳ古倉「ドイツの自転車政策その10」及び「ドイツの自転車政策その11」 サイカパーキング「パーキングプレス」2022年9月号及び同10月号で自転車文化の醸成を取り上げている。