駐車場に関するお問い合わせ
ホーム / お知らせ一覧 / コラム / 【第13回】コロナは自転車通勤を拡大しなかった
2023.02.15

コラム

第13回 コロナは自転車通勤を拡大しなかった

今回は、コロナ禍の中で推進されてきた自転車通勤がどの程度増加したかについて、特に通勤通学者が多い東京都の都心五区において、国勢調査による自宅外の通勤通学をしている人の利用交通手段を従業地ベースで2010年と2020年で比較して、検証したいと思います。2010年当時は、コロナ禍は存在せず、2020年は調査時点の10月1日はコロナ禍の最中で、かつ、次に述べるように、国や地方公共団体上げての自転車通勤を推進していたところでした。この時点での数値は、コロナ禍の影響を受けていることになります。

1.都心五区への通勤通学者数

国勢調査によると、2010年と2020年の東京都の都心五区(千代田区、中央区、港区、新宿区及び渋谷区)への通勤通学者の人口は、次の表1の通りです。これを見ますと、コロナ禍の中、自宅外の通勤通学する人は千代田区で859千人となり、2010年に比較して73千人(9.3%)増加していることが分かります。減少の中央区及び渋谷区もそれぞれ107人及び869人の減少で、その割合もわずかです。この表にはありませんが、特別区全体では90千人が増加しています。

表1 都心五区への通勤通学者人口(従業地・通学地ベース)
出典 国勢調査(2010年、2020年自宅外通勤通学時利用交通手段)による
 

2.コロナ禍の中での自転車通勤は?

(1)2020年当時の自転車通勤の状況
コロナ禍の中で、国や地方公共団体は、在宅勤務や自転車通勤を盛んに推奨してきたことは、皆さんの記憶に新しいことかと思います。コロナ禍の当初の動向について、当時の日本経済新聞は、『「必要な外出」自転車で』と題する一面トップの記事(2020年5月2日土曜日夕刊)でその動向について、「外出自粛が求められるなか、生活に欠かせない買物や仕事で出かけるときの移動手段として自転車への関心が高まっている」と報じています。そして写真では「都市のオフィス街では、自転車通勤をする人の姿が目立つようになった」として自転車通勤が伸びているような印象を与えています。一方、自転車販売店のインタビューとして購入・買い替え需要も増加しているとされていますが、実際に自転車の売上が増加し、さらに品薄が続いていたことは事実です。

(2)自転車通勤を推進する政府の方針
自転車通勤は、新型コロナウイルス感染症の基本的対処方針(2020年3月、同5月など)で強く推奨されたものです。その中で、事業者に対して、そして政府、地方公共団体も自ら「職場に出勤する場合でも、時差通勤、自転車通勤等の人との接触を低減する取組を引き続き強力に推進」するとなっていました。これらの点も受けて自転車通勤の動向が注目されたのです。
官民挙げて、在宅勤務等で出勤する人を少なくする(出勤者数の7割削減を目指していた)が、出勤の場合も時差通勤、自転車通勤を推進することになっており、緊急事態宣言後も事業者に対しては、引き続き「在宅勤務、時差通勤、自転車通勤等」を働きかけるとされていました。
これを受けて、政府の自転車活用推進本部も、「自転車活用推進企業」宣言プロジェクトを創設するなど、自転車通勤の一層の推進策を講じました。このように、通勤する場合の手段を自転車通勤という密を避けた方法がコロナ禍に際して、推進されてきました。

(3)これらを受けた企業と通勤者の動向
これらを受けて、事業者である企業がどのように対応したかについては次の通りです。民間調査会社(図1出典参照)のアンケートによれば、自転車通勤を認めるようになった企業は、当初26%から64%に急拡大したとされています。

また、通勤者の意向はどうかについては、自転車保険を取り扱うau損保の調査(2020年6月)では、もし自転車通勤か認められたら自転車通勤をしたいかについて尋ねたところ、「したくない」55.3%(414人)、「したい」28.9%(216人)、「分からない」15.8%(118人)の順となっていました。「したい」人が低い割合に見えますが、自転車通勤が認められても、通勤距離が長い人がたくさんいますので、約3割の人が積極的に自転車通勤をしたい人ということは、相当に自転車通勤が増加する可能性があると考えられました。

 

(4)自転車通勤をする人は増えましたか?
民間調査(SBI日本少額短期保険株式会社2020年10月7日発表、回答者1,037人)によれば、新型コロナウイルスの影響で自転車に乗る機会は、29%の人が増えたとしており、また、別の調査(しらべえ編集部、回答1,080人)では、新型コロナで通勤通学時は自転車に変えた人が、23%となっているとしています。さらに、自転車活用推進研究会が実施したアンケート調査(同年6月、回答者は自転車愛好家が多いのですが)では、通勤距離が15km以上の人は自転車通勤が23%であったものが40%に、15km未満~10kmで39%から64%に伸びるなど大幅に自転車通勤を増やすと回答していました。これらにより、政府の方針や会社の自転車通勤を認める会社が増加したことを受けて、大幅に自転車通勤が増えることが予想されたのです。
また、2020年7月18日(土)の日本経済新聞夕刊では、一面トップで「自転車利用世界で加速」と題して、「独仏英4~5割増、米でも人気」とされ、自転車レーンの一時的な整備や補助金で世界でも自転車利用が大きく増加していることを伝えています。

3.データによる検証~国勢調査による自転車通勤

これらの情報は、正確な情報に基づいて全体を把握しきれているデータがあれば、根拠をもって明らかにできます。これを全数調査である国勢調査のデータにより検証してみたいと思います。日本でも世界でもこれらの全体の傾向に関しては、しっかりとしたものが簡単に入手できないことが課題ですが、特に自転車に関しては、全体を把握するための調査が難しいこともあってこれらを解明することが一般的には難しいのです。
たまたまですが、この年(2020年)10月に国勢調査が実施され、通勤通学時の利用交通手段について2022年7月に結果が発表され、最も信頼性のある全数調査によりその動向を把握することができました。この国勢調査の結果を本コラムでもたびたびご紹介してきましたが、コロナ禍で上に述べた状況下にも関わらず、全国の自転車の通勤通学のドアツードアでの利用割合は9.8%と、前回2010年よりも1.4%下落し、人数にしてマイナス約95万人の減少となりました。また、すべての都道府県で前回よりもその割合を下げていることもご紹介した通りです。
これをまとめますと、自転車通勤をコロナ禍で官民を挙げて推進してきたにもかかわらず、その最中で実施された国勢調査結果での通勤通学時の自転車利用は、全国や都道府県レベルでは、減少していたことになります。なお、「自家用車」でのドアツードアの通勤割合は、以前にも述べましたが、2000年が44.3%、2010年が45.1%、2020年が46.9%と、増加の一途をたどっていますので、コロナ禍の通勤通学時のクルマの依存度は一層高まっていることになります。

4.東京都千代田区等の都心五区の傾向

(1)大都市部での傾向を知る
しかし、これらの自転車の減少と自家用車の増加は、大都市以外の地方の都道府県も含まれ、多くの地域では都市の郊外化や外延化というようないわゆるスポンジ現象等が原因の一つと考えられますので、コロナ禍の影響は差し引きされたのではないかとも推察できます。特に、前述のアンケート調査は、大都市又は東京を中心に実施されたこともあります。この地域では、公共交通が発達している大都市の代表例で、このスポンジ現象とは無縁の地域でありますので、コロナ禍の影響がより濃く反映されている可能性があります。
このため、公共交通が発達し、通勤通学人口を多く受け入れている東京都の都心五区に焦点を当てて、自転車通勤の動向を簡単に見てみましょう。

(2)従業地・通学地での自転車通勤の人数と比率(ドアツードアの人数と比率)
表2で、都心五区に通勤・通学している人(従業地・通学地の人口)の自転車通勤を整理してみました。2020年を見ますと、例えば千代田区では、千代田区在住者を含めて千代田区に通勤通学地がある人で、自転車通勤をしている人は5,052人います。これは千代田区への全通勤通学者数の0.59%になります。他市区町村から通っている人(他市区町村に常住)は3,976人であり、このうち自区以外の22区からの人が3,668人で、23区外(他県も含めて)からの人が308人です。2010年と比べると、655人増となっており、その内訳は、自区が198人、自区以外の22区が454人、23区以外の人が3人の増加ということになります。都心五区全体を見ますと、従業地・通学地の全体で自転車通勤・通学が増加したのは、千代田区と港区と渋谷区で、655人(+14.9%)、646人(+10.0%)及び643人(+8.6%)です。中央区と新宿は減少して、それぞれ865人(-10.3%)及び2,192人(-16.6%)の減少となっています。
これらの結果、千代田区、港区及び渋谷区に勤務地又は通学地のある通勤通学者のドアツードアの自転車利用の比率は、それぞれ0.56%から0.59%に、0.86%から0.90%に、1.92%から2.09%に、それぞれ上昇しました。また、中央区及び新宿区の当該比率は、それぞれ1.55%から1.39%に、2.42%から1.97%に減少しました。
コロナ禍での都心五区でのドアツードアの自転車通勤・通学の増減は、大都市部でも期待されたように必ずしも増加しているとは限りませんし、その増加率はアンケート調査で期待されたような大幅なものではなく、小幅にとどまっていると言えます。
通勤通学の在り方はコロナに大きく影響されたことは事実ですが、自転車通勤については全国的に、また、都道府県別にも10年前の国勢調査の結果比較してあまり影響がなく、通勤通学者の人口が多い都心五区でも増加又は減少の両態があり、また、増加しても影響はあまり大きくはなかったと言えましょう。この背景としては、都市の立地企業が自転車通勤を認めるようになっても、自転車事故等を恐れて、必ずしも会社を挙げてこれを積極的に推進するまでには至らなかったこと、外国では臨時のホップアップレーンといわれるような自転車走行空間を道路に設けるなどをしたようですが、わが国では掛け声はありましたが、そこまでの走行環境や駐輪環境が緊急対策として用意されたわけではなかったこと、これらを背景にして、多くの通勤者は、自転車通勤が注目されても、比較的ニュートラルな態度をとったことなどがあると思われます。

表2 自転車通勤・通学者数の比較(2020年・2010年国勢調査)

(3)これからのあり方~自転車利用は夢がある
しかし、コロナ禍がなくとも自転車は今人類最大の課題の一つでもある脱炭素のまちづくりや健康増進・生活習慣病克服のまちづくりの観点から大きく期待されています。無料かつ渋滞がなく通勤時間を短縮して(朝寝が可能)毎日できる身体活動として、また、他のエネルギーを使用せず自分のエネルギーを主として使って移動できる交通手段として、将来の健康寿命や地球環境に夢や希望をもたらす可能性のあるものです。このような大きなメリットがあるという共通の理解のもとに、自転車通勤・通学の人数をもっと増やして健康な国民・市民を拡大していく一層の取組と理解が必要です。どれだけ大きなメリットがあるかは、本コラム7回、8回及び9回で具体的な数値を挙げて説明していますので、ご参照ください。
今後の自転車通勤・通学の推進については、コロナ禍がない状態、コロナを頼らない前提で、より強力な、そして、より効果のある方策を模索・検討していくことが必要です。

文:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

【PDFダウンロード】